ネットワーク効果だけでは参入障壁たり得ない

村上:ネットワーク効果が参入障壁になり得るのは、スイッチング・コストが高い場合ではないでしょうか。人間は飽きやすい生き物ですから、人の趣味嗜好だけに依存して構築されたネットワーク効果は崩れやすい。

しかし、例えば電話の場合、電話会社を変えようと思ったら新たに回線を引く必要があり、ユーザーからすればスイッチング・コストが高いわけです。このように、ユーザーの支持だけでなく、リアルアセットによってスイッチング・コストが高い状態に保たれていることとセットになることで、ネットワーク効果ははじめて参入障壁となり得るのではないかと思います。

朝倉:SNSの場合、運営者側がスイッチング・コストになり得ると目論んでいたのが、アクティビティログやライフログですね。自分自身の行動履歴や記録が貯まっていくことによって、ユーザーにとって離れがたいサービスになるものと考えられていました。

ですが、蓋を開けてみると、こうした思惑は期待通りの結果にならなかった。それはスイッチング・コストになり得るほどのログを十分に蓄積できなかった、蓄積すべきログの性質が違ったということなのかもしれませんし、そもそもこうしたログは一つのサービスにとどまる理由にならないということだったのかもしれません。

またユーザーの嗜好や生活スタイル、ライフステージが変わると、それまでに蓄積していた過去のログが、今のユーザーにとって不適切になり、かえってサービスの卒業を促す一因にもなっていたのでしょう。

村上:蓄積されたデータに価値があるかどうかは、データの性質によっても異なるでしょうね。例えば、あるユーザーのライフログを15年分蓄積している場合と、短期間しか蓄積していない場合でも、最新の多様な消費者のライフログを持っている点では、後者の方がより高く評価されるといったケースはよくあります。

単にデータを蓄積しているだけでは、スイッチング・コストになるとは限りませんし、どのようなデータにどうアプローチするかが重要なのだと思います。

朝倉:ネットワーク効果にせよ、データ蓄積にせよ、それが恒久的な参入障壁に直結するわけではないということでしょうね。

*本記事はVoicyの放送を加筆修正し(ライター:岩城由彦 編集:正田彩佳 記事協力:ふじねまゆこ)、signifiant style 2020/6/28に掲載した内容です。