ネットワーク効果は諸刃の剣?

小林:複数の事業者が同じ価値のサービスを提供しているのであれば、一般的には、利用者の数が多い方が広まりやすくはあるでしょう。一方で、同じように見えるサービスでも、実際には異なる新しいサービスが出現した場合だと、状況は異なります。

例えばモバイルゲームのプラットフォームが、ガラケー(ガラパゴス携帯)からスマートフォンにシフトしていったような状況ですね。2010年代初頭のソーシャルゲームの事業環境を思い返すと、当時、ガラケーのプラットフォームは多くのゲームユーザーを抱えていました。

そこにスマートフォンが現れたわけですが、テクノロジーの変化やコンテンツの違いが出てきたことで、ガラケーのプラットフォームが陳腐化し、単純にユーザー数の多寡だけでは、付加価値を提供し続けることも、ユーザーを囲い込むこともできないといった状況が起きました。SNSの栄枯盛衰も、同じような状況だったのではないでしょうか。

朝倉:そうですね。よく言われる話ですが、Facebookは最初に登場したSNSではありません。MyspaceやFriendsterのように、Facebookよりも先行して多くのユーザーを抱えていたサービスもりました。

しかし、Facebookは大学という小さな社会集団で濃厚なユーザークラスターを生み出し、「この学校ではFacebookを使った方がより多くの友人と繋がれる」という「Facebokを選ぶ理由」を創り出しました。局地的なネットワーク効果を生み出し、その横展開で一気にユーザーが広がっていった例です。

当たり前の話ですが、SNSは人と交流するためのツールですから、「友達が使っている」ことが使う理由になります。ネットワーク効果によってユーザー数の拡大が図りやすいサービスの典型例ですね。

小林:朝倉さんは日本のSNSの栄枯盛衰の只中にいたと思います。日本では、ある時期まではmixiがSNS最大手でしたが、FacebookやTwitter、LINEといった軸足の異なるサービスが出てきて、覇権が移り変わりました。

朝倉:そのときの実体験から強く感じるのは、ネットワーク効果は必ずしも参入障壁ではないんじゃないかということです。たしかに、右肩上がりの成長プロセスにあるサービスが急速にユーザー数を拡大させる施策として、ネットワーク効果を採り入れるのは非常に効果的だと思います。

一方で「参入障壁」と呼べるような新規参入を食い止める持続的な効果がネットワーク効果にあるのかと言えば、私は懐疑的です。例えばC向けのWebサービスの場合、利用者数には一定の上限がありますから、いずれは飽和点に達して成熟期を迎え、通常はその後、下降線を辿るものです。恐ろしいのは、ネットワーク効果は逆回転を起こし得るという点です。

SNSだと、サービスが成長している間においては、「ユーザーが集まっていること」自体が、新規ユーザーがサービス利用を始める理由となり、同時に新規の競合プレイヤーが参入することを妨げます。一方で、使う理由が「友達が使っている」からであればこそ、人が集まらないSNS、人が離れていくSNSに魅力はありません。

ユーザー数が減少局面に入ると、今度は利用を止める理由にもなり、急速にユーザー離れが起きます。負のネットワーク効果が働くわけですね。ネットワーク効果はサービスの成長期においては利用を促進する反面、衰退期においてはユーザー離脱を促進する原因にもなる。これを果たして「参入障壁」と呼ぶべきなのか、疑問に感じるところです。