「私の場合は、責任者のサインがないと業務が滞るというので、急遽、渡航を計画しました。コロナ禍で、税関手続きに必要な書類の月末締めのサインを8カ月分も遅らせてきたのです。総経理(日本でいうゼネラルマネジャー)、董事長(日本の取締役のような立場)という役職に就きながらも日本に滞在している人も少なくありませんが、こうしたケースでは、印鑑を持って本人が中国に移動しなければ会社が回らなくなってしまいます。恐らく、中国に不慣れな日本人も少なくないのは、こうした事情もあるからでしょう」

14日間の隔離生活を送ったリゾートホテル

 ちなみに林さんによれば、現段階で入国できるのは「法人を活性化させるための目的に限られる」という。

 よほど豊富な中国経験を持たない限り、この“中国式隔離生活”はのっけから地獄を見る思いだろう。こうしたこともあってか、ホテルに滞在した日本人は次に来る日本人のために、改善点を要求してここを去るのだという。爪切りや歯磨き粉がホテル内で購入できるようになったのもそのためだ。林さんも早速、食事の改善を遼寧省の外事弁公室(国際交流を担当する部署)に申し入れた。

長かったのは成田空港までの道のり

 実は、林さんの中国渡航における困難は、日本を出発する以前から始まっていた。まずはビザの申請だ。今回の中国入国に際して、90日のMビザ(商務貿易ビザ)を申請したのだが、それには省レベルの外事弁公室が出すバーコード付きの招聘状が必要になる。申請は、日本商工会の組織である大連商工会を通じて手続きを行う必要があった。通常、現地の企業が必要とする人材には企業が発行する招聘状で事足りたが、コロナ禍においてはこれが通用しないようだ。

 招聘状が下りたのちに航空機を予約するという段取りになるが、これも毎月下旬に中国当局が発表する翌月の就航予定にも注意しなければならない。突然キャンセルされる便もあるからだ。

 状況の変化に応じたルールの変更も少なくない。すでに中国大使館は「2020年9月25日(25日当日を含む)から、日本から中国へ渡航する中国籍および外国籍の旅客に対し、搭乗手続きの際は、3日以内(発行日を基準とする)の新型コロナウイルスPCR検査陰性証明が必要になる」と伝えている。林さんは今回の渡航で、日本でのPCR検査が「急に義務化するかもしれない」と用心し、証明書日付が出発前の8月18日になるよう、同月14日にPCR検査を済ませていた。彼は隔離前後も含めて合計3回PCR検査を受けた計算になる。

 隔離生活を終えた林さんを迎えたのは、再会を喜ぶ現地の友人や従業員らの熱烈な「ハグ」だった。「おいおい、ちょっとそれは」と林さんはたじろいだが、大連市民はまったく意に介していなかったという。今年7月下旬から再び新型コロナウイルスが流行した大連市では、市民全員を対象にPCR検査を実施したのだ(9月16日の時点で新規感染者はゼロとなっている)。

 PCR検査とアプリのヘルスコードによる管理、ほぼこの2点のみで感染を封じ込めようとするのが中国だ。人口大国の中国では、生活の差や教育の差など、あらゆる格差が大きいため、日本のような「自主管理」に期待するのは難しい。中国政府の強制措置には反論もあるが、「安心感は結果として経済回復に大きな作用をもたらしているんですよね」と林さんは語っていた。