人間とは何か?

高橋最後の質問です。「人間とは何か?」。ビジネスの鼎談に出てこないテーマをあえて出させていただきました。「幸せとは何か?」を考えたとき、僕が最後に行き着く問いはこれなんですよね。今、食事が工業化して、人間も生産手段やロボット化している。そうするとますます、「人間って何だろう?」と考えてしまう。僕も答えは出ていません。死ぬまで考えつづけるでしょう。人生100年時代と言われますが、人生が長くなるほど問われるのは、「質」の部分です。

 先日、僕は岩手県沿岸の被災地300kmを歩きました。9年前に岩手県知事選に出た時と同じ道を歩いて、被災地の「いま」を自分の肌で感じたかったからです。ベンチャー企業の社長がこんなことを話すと、「出資して大丈夫なのか?」と不安視されるかもしれません。よく言われるんですよ。「何の役に立つんだ?」と。僕は「何の役にも立ちません。意味があるからやっている」と答えます。役に立つか、立たないかだけを基準にすると、自分よりも役に立つ人間が現れたらお払い箱になってしまう。最後は、ロボットやAIと代替可能になるでしょう。僕は自分の行為に意味づけできるのは、人間だけだと思うんです。どんな人にも意味がある。だから、それを大切にしたいんですね。一木さんと青井さんにとって、人間とは何でしょうか?

一木私が最初に思ったのは「人間は一人では生きられない社会的動物だ」ということ。私たちには生まれたときから、人と助け合おうとする本能が備わっているのだそうです。いま、なぜ経済的に豊かなのに、幸福度に課題があるのか? それは経済的で利便性のよいサービスを使うようになり、人との助け合いやかかわりが希薄になったからだと思います。一人では生きられないから、一緒にご飯を食べることや、つながることが幸せを感じるために大事なことでしょうね

 一方で、人間には学んで考えて行動ができるという面もあります。つまり、変われるということ。ないものよりも、あるものに意識を向ける、背後のストーリーを知るだけで、幸福度や行動が変化し得ることに希望を感じます。

青井鼎談で「人間とは何か?」というテーマが出てくること自体が素晴らしいですね。経済的利益や、役に立つことだけでは、もはやビジネスができなくなってきているということ。お二人の話のなかで私も共感するのは、人間と自然について。人間は自然の一部なのに、自然をコントロールしたり、克服しようと考えて、自然から自分を引き離しています。資本主義は発展したけれど、人間にとって息苦しくて幸せじゃない。そういう社会に限界がきているなと。まさに今、コロナが世界中でグレートリセットを起こそうとしています。ここから元に戻るのか? 新たな社会に進化していくのか? 大きな分かれ道だと思います

 僕たちはもともと自然の一部です。人間だけが偉いわけじゃないし、地球を支配しているわけじゃない。人間至上主義や人間中心主義から脱却して、自然と「共生」していくことが大切です。高橋さんが取り組まれている「顔が見える関係性」をつくっていくことで、意識や行動が変わる。将来世代や環境にも貢献できるし、日々の生活や人生が豊かになって、持続可能性やウェルビーイングにもつながっていく。今日からすぐに始められるのは、やっぱり「食」だと思います。だから、「人間とは何か?」を考えるうえで、ポケットマルシェの取り組みは大事なことです。

高橋青井さんから「人間中心主義からの脱却」という言葉が出てきて、僕は大興奮しています。リアルにお会いしていたら、青井さんにハグをさせてもらいたいです。僕も「脱人間中心主義」をずっと唱えていますが、企業経営者とこういう話をすると、ポカーンと口を開けられるんですね。やっぱり経済のなかでこの言葉は伝わらないのかと、最近ためらっていたのですが、これからは「脱人間中心主義」をどんどん言葉にしていきます。

 グレートリセットの話が出ましたが、僕もコロナは壮大な断捨離だと思っています。「ニューノーマル」という言葉がありますが、コロナ前が本当にノーマルだったのか? コロナで経済活動が止まると劇的に地球環境が改善しています。家族とご飯を食べる時間が増えたという人が増えて、ウェルビーイングにもいい。むしろ、コロナ前がアブノーマルで、ノーマルに戻っただけじゃないかと。今の社会にふさわしい経済やビジネスのカタチを、今回共感して出資していただいたオレンジページさんや丸井グループさんたちと一緒につくっていきたい、そうあらためて思いました。お二人とも、今日はありがとうございました。

(了)