「個」と「個」をつなぎ、分断を乗り越える

「食のC2C」ポケットマルシェに、オレンジページと丸井グループが出資した革新的な理由青井 浩(あおい・ひろし)
株式会社丸井グループ 代表取締役社長 代表執行役員CEO
1986年、株式会社丸井(現丸井グループ)入社、常務取締役、副社長等を経て、2005年4月より代表取締役社長に就任。創業以来の小売・金融一体の独自のビジネスモデルをベースに、ターゲット戦略の見直しや、ハウスカードから汎用カードへの転換、SC・定借化の推進など、さまざまな革新をすすめる。ステークホルダーとの共創を通じ、すべての人が「しあわせ」を感じられるインクルーシブで豊かな社会の実現をめざす。

高橋さきほど青井社長からD2Cの話が出ましたが、D2Cの本質とは、「個」と「個」がつながることの破壊力。僕は「個」の尊厳の復活や人間の復興だと思います。従来の大量消費社会において、僕たちは記号化・類型化・数値化され、個人はマーケティングの対象でしかなかった。「個」が消えて埋もれていたから、つながりようがなかったんですね。ポケットマルシェは、生産者や消費者にさまざまな個性や背景があって、「個」と「個」が際立っている。だから、関係性が生まれます。生産者と消費者がつながった百花繚乱の「食」の世界をめざすことも、僕たちの役割です。あらためて、オレンジページさんと丸井さんのビジョンを教えていただけますか?

 僕たちポケットマルシェは、「共助の社会を実現する」ことをビジョンに掲げています。原点は9年前の東日本大震災。あの出来事がなかったら、僕はこの事業を立ち上げていなかったと思います。当時、僕は三陸沿岸の被災地を駆けまわっていました。自然災害は社会の弱点を突いてくるといわれます。あの時は過疎高齢化が進んだ地方の生産現場が甚大な被害を受けました。では、なぜ、生産地が社会の弱点になってしまっていたのか? 僕は「都市と地方の分断」という問題にぶつかりました。都会の人には、食べものの裏側にある生身の生産者の姿がわからない。お互いの顔が見えなくて、知らないことが「分断」を生んでいました。だから、僕たちのミッションは、「個」と「個」をつなげることです。そして、生産者と消費者が、都市と地方が共に生きる社会をつくる。

一木オレンジページのブランドパーパスは、『「食」を起点に暮らしをつくり、生活者、コミュニティ、地球の、よりウェルビーイングな未来をつくる』ことです(8月24日:オレンジページ社プレスリリース参照)。いまや「食」は地球環境や一次産業のサステナビリティにも深く関わっていますので、「楽しい・おいしい・ワクワク」を生活者に提案するだけでなく、もっと私たちの存在意義や使命を広げたいと思っています。

 私たちは、『「食」の意味と物語を発見し、編集し、贈ることで、①生活者と●●をつなぐ(●●は、その生活者にとっての Something New 世界を広げる視点や情報のこと)。②ウェルビーイングを協働・共創する生活文化を育む』――をミッションに掲げています。生活者と地方や文化、自然など、いろんなものをつなぐことで生活者に新たな世界が広がり、協働や共創の文化がはぐくまれるといいなと考えます

青井:私たちが一番大切にしているのは、「共創」――ともにつくるということです。これは、丸井の創業者の青井忠治が「与信」について語った言葉に由来します。「信用とは、私たちがお客様に与えるものではなくて、お客様とともに作るもの」だと。

 当社は1931年に創業し、「月賦販売」でお客様とともに信用を築いてきました。普通の小売業は販売したら終わりですが、丸井は「月賦販売」によって購入後もお客様とのご縁が末長く続くことが強みだったのです。2007年から7年ほど経営危機に直面したとき、当社が提供できる価値の原点を問い直しました。これまでいかにお客様や社会から支えていただいてきたか、そのコアとなる価値を、いまの社会やお客様のニーズに合わせて提供できれば復活できるんじゃないか、と。

 私たちは「ビジネスを通じてあらゆる二項対立を乗り越える世界を創る」という長期ビジョンを掲げています。そして、「すべての人が『しあわせ』を感じられるインクルーシブで豊かな社会を共に創る」ことがミッションです。「二項対立」ではなく、AもBもあってもいい。共通点に注目して、「個」の輪を広げていくことが幸せやウェルビーイングにつながります。

高橋4年前に亡くなった僕の姉は、知的障害者でした。だから僕は、議員時代からインクルーシブな社会や教育の必要性を訴え続けてきたし、マイノリティがなくなる社会をつくりたいと思っています。社会を断ち切る「分断」を乗り越えるには、「AかBか」の二元論ではなく、「AもBもどちらも」という日本古来の「間」の概念が大切です。丸井さんは、二項対立をビジネスで乗り越えていくという、僕たちがめざしている社会をより解像度が高いカタチで表現されていますね。丸井さんとオレンジページさんとポケットマルシェ、それぞれ登り口は違っても、めざしている山の頂きは一緒だと感じます。

「食のC2C」ポケットマルシェに、オレンジページと丸井グループが出資した革新的な理由青井氏と高橋氏