岡田有希子さんの「後追い」が急増
野猿の「解散」も引き金に
現代では、1986年、アイドルの岡田有希子さんが自殺したときのケースが有名だ。「松田聖子2世」と呼ばれるほど人気があったこと、自殺現場からの生中継が行われたり、現場写真が雑誌に掲載されたりしたことにより、報道はセンセーショナルに加熱した。その影響により、後追い自殺が増えたと言われた。
この年は「葬式ごっこ」が絡んだいじめ自殺報道も多くなされ、文部省(当時)がいじめ統計を取り始めたタイミングでもあった。岡田さんの自殺も相まって若年層の自殺が注目され、過度な報道があったことで、10代の自殺が増えたのではないかとも言われている。
警察庁の自殺統計によると、この1986年における19歳以下の自殺者は802人で、前年と比較して255人も増加した。翌87年になると一気に225人減少したことから、自殺報道の影響があったと見る専門家は多い。
こうした過去の事例を見るにつけ、今年8月の自殺急増にも、報道が影響した可能性はある。しかし警察庁の自殺統計によると、「20歳未満」の「原因・動機」で最も多いのは「学校問題」が最多で32人と、過去10年における8月の「原因・動機」別で最も多い。「家庭問題」や「健康問題」でも、同様の傾向がある。仮に、著名人の自殺報道がトリガーになったとしても、ベースとなる悩みは別にありそうだ。現段階では「学校問題」の詳細なデータは揃っていないので、これ以上のことには言及できない。
一方、著名人の自殺でなく音楽グループの解散をきっかけに自殺が起きたケースもある。とんねるずを中心としたグループ「野猿」が2001年5月、解散した。亡くなったのは福岡県の女子高生2人で、自殺した際のメモが見つかったが、その最後には「撤収」と書かれていたという。
2人は別々の高校に通学し、解散コンサートがある国立代々木競技場第一体育館を訪れていた。1人は入学以来、授業を欠席したことはなかった。同校の教諭は「『野猿が解散するなら、もうどうでもいい』などと友達に漏らしていたらしい」と話している(朝日新聞2001年5月16日)。もう1人も、「2年生になってから遅刻や欠席はない」とされていた。まじめな生徒たちだったようだが、解散も自殺も「もう目にすることはない」という意味で、少なくともこの2人にとっては、有名人が死亡したのと同様の喪失感があったのだろう。