保険ラボ

第一の元営業社員による金銭不祥事で
『実録 頭取交替』に再び脚光が当たる

 今から十数年前、ある有力地域金融機関で権力闘争が巻き起こった。その舞台裏を小説に仕立てたのが、『実録 頭取交替』(講談社)だ。発刊当時、銀行業界のみならず保険業界でも話題となったが、今ふたたびこの書籍に注目が集まっている。

 本書の舞台は、中国地方に本拠を構える有力地方銀行の維新銀行。そして中心となる登場人物は、同行の頭取を務めた後、相談役として長らく権勢を振るった甲羅万蔵氏と、その甲羅氏と深い関係にある第五生命保険の営業職員、山上正代氏の二人だ。

 前半部分は、甲羅氏が維新銀行に労務管理の責任者として入行後、若かりし頃に関係があった第五生命の営業職員、山上氏と再会。その後、甲羅氏が実力者として出世街道を駆け上がっていくのに伴い、山上氏の保険勧誘への手助けや契約実績の多寡が、甲羅氏への忠誠の度合いを測る物差しとなっているさまが描かれている。

 そして、後半は本書のタイトル通り、甲羅氏が後任に指名した頭取の更迭を目論んで頭取交替劇が巻き起こり、その舞台裏が描かれている。

 そこには、甲羅氏を影から支える山上氏の存在についても、随所に触れられている。地元の名士や有力者と懇意になり、保険の見込み客を紹介してもらうのは保険営業の常套手段といえるが、本書に描かれている保険の募集方法はかなり常軌を逸している。

 だが、今回、注目を浴びることとなったのはその点ではない。山上正代氏のモデルとなった実在の人物が、今、保険業界を揺るがす金銭の不正取得を行ったとみられるからだ。