コロナショックを経て、人々が企業を見る目や意識、姿勢が大きく変化し、これまでよりもさらに誠実であることを求めている。また企業が、悪意はなくても勉強不足や想像力の欠如によって人権を侵害し、大炎上するケースも増えている。何に気を付けるべきなのか。本連載では、注目を集める企業の人権違反とその対応策について紹介する。連載2回目で取り上げるのは、就職活動生に対する「リクルート・ハラスメント」について。以前よりもリクハラを巡る事件が増えたのはなぜか。そして企業はどんな対応策を講じればいいのか。(オウルズコンサルティンググループ代表取締役CEO 羽生田慶介)
住友商事、大林組の社員が起こした
「リクハラ」が社会問題に
新型コロナウイルス感染拡大を受け、近年続いてきた新卒採用の売り手市場に、陰りが見えている。
日本経済新聞社が2020年10月18日にまとめた採用状況調査によると、主要企業の大卒採用の内定者数(2021年春)は前年春と比べて11.4%減となり、リーマン・ショック以来の2桁減を記録した。新型コロナウイルスや米中摩擦などによる景気悪化の影響だ。
今なお続く「オンライン就活」の波が落ち着き、今後、対面での就職活動が解禁されるとあらためて懸念されるのは、就活生に対するハラスメント、いわゆる「リクハラ(リクルート・ハラスメント)」だろう。
リクハラはこの数年で急速に社会課題として注目されるようになってきた。2019年前半には、大手企業の社員が女子大生に対するわいせつ行為により逮捕される事件が立て続けに発生した。
例えば19年2月には、大手ゼネコン大林組の男性社員が逮捕された。OB訪問で会った女子大生に対して、面接指導をすると自宅に誘い込み、わいせつ行為に及んだためだ。
続く19年3月には、住友商事の社員がOB訪問に訪れた女子大生を泥酔させ、学生の宿泊先ホテルに侵入して性的暴行を加えたとして、準強制性交罪などの疑いで逮捕されている。就職先の人気企業ランキングでは男子部門で5位以内、女子部門でも15位以内に位置するエリート商社の社員が、多くの就活生の憧れと期待を裏切ったわけだ。
性的な被害だけではない。20年4月にはパワハラによって内定者を自殺に追い込むような事件も発覚した。パナソニック子会社のパナソニック産機システムズの内定者が、同社人事課長からのパワハラによって自殺に追い込まれたことに対して、遺族の代理人が会見を開いている。
この人事課長は、男子学生ら内定者に対して、内定者向けの交流サイトに毎日ログインし、コメントなどを投稿するよう求めていた。この交流サイト上で、「無理なら辞退してください、邪魔です」「丸坊主にして反省を示すか?」「空気、読めてるか?」などと、人事権をちらつかせながら攻撃的な投稿を繰り返していたという。精神的に追い詰められた男子学生は、入社式を迎えることなく、ビル屋上から飛び降りた。
コロナ禍の影響による景気悪化などを背景に、新卒採用が売り手市場だと考える企業は、20年7月には全体の4割にとどまっている。19年の9割からは大幅に減ったわけだ。採用市場で買い手が強くなると、企業側はより力を持ち、就活生側はこれまでよりも圧倒的に企業側の都合に振り回されるようになる。このパワーバランスの中で今、「リクハラ」が増えることが懸念されているのだ。