インターネットの「知の巨人」、読書猿さん。その圧倒的な知識、教養、ユニークな語り口はネットで評判となり、多くのファンを獲得。新刊の『独学大全──絶対に「学ぶこと」をあきらめたくない人のための55の技法』には東京大学教授の柳川範之氏「著者の知識が圧倒的」独立研究者の山口周氏「この本、とても面白いです」と推薦文を寄せるなど、早くも話題になっています。
この連載では、本書の内容を元にしながら「勉強が続かない」「やる気が出ない」「目標の立て方がわからない」「受験に受かりたい」「英語を学び直したい」……などなど、「具体的な悩み」に著者が回答します。今日から役立ち、一生使える方法を紹介していきます。(イラスト:塩川いづみ)
※質問は、著者の「マシュマロ」宛てにいただいたものを元に、加筆・修正しています。読書猿さんのマシュマロはこちら

9割の人が知らない「完璧主義のせいで、ぐずぐず行動できない」を治すスゴ技Photo: Adobe Stock

[質問]
完璧主義にどう向き合えばいいのかがわからない。

 理想が高すぎます。

 私は完璧主義です。大学生なのですが、課題をする際に完璧主義に陥ることが多く、~をしないといけないと考えてしまった結果、全てが手付かずになってしまいます。もうこれは性格なので、完璧主義を克服しようというのは諦めています。いかに自らの完璧主義を受け入れるのかということの方が大切である、という考えにシフトしてはいますが、なかなか完璧主義の呪縛からは解放されません。考えられる原因もわからないし、とにかく自分で自分の首を絞めてるようで辛いです。受験も現役の頃に完璧主義が災いして病んでしまい、浪人して今の大学に入りました。大学に入ることはできたものの自分の欠点が改善されておらず、ひたすら自己嫌悪が止みません。

 これはもう幼い頃から完璧にこなせるまで机に縛りつけられ、泣きながら勉強させられたことが原因である気がします。このように教育した親を憎みますが、親を憎み、あんたのせいだって言っても向こうはこちらの痛みもわかってはくれないし、涼しい顔しかせず苛立ちますし、21歳にもなって親のせいにすることも向こうの意のままになってる気がして悔しいです。どうにかして自分の手で解決したいのに、周りに相談する人もいなくて(というよりも友人にはあまり深い答えを期待できない)、受験時のように病みそうです。

 文がまとまらずにすみません。ただ、完璧主義にどう向き合えばいいのかがわからないんです。少ないステップを踏むとかネットに書かれてるものを試しましたが挫折してしまいました……。

地道な作業ですが、完璧主義は行動で変えられます

[解答]
 ヒトの能力も与えられた時間も有限である以上、ヒトにできることで完全なものはありません。完璧主義とは、ヒトの有限性を等閑視する現実逃避の信仰であり、人を憂鬱に追い込み死さえ招く邪信です。

 さて、ヒトは認知の食い違いを嫌う生き物です。

 現実と一致しない信念(これも認知のひとつです)をひとつ持つと、現実と関連する認知との間に齟齬を来たしますが、その食い違いを解消するためには、現実と一致しない信念か、現実と関連する多くの認知か、いずれかを放棄するしかありません。

 現実と一致しない信念を保持し続けると、それと齟齬をきたす現実に関連する認知を持つことがつらくなります。事は認知に留まりません。行動するためには現実についての認知が必要であり、行動することによって事後的にも現実についての認知は更新するものです。

 つまり現実と一致しない信念を保持するためには、できるだけ行動を遠ざけなくてはなりません。

 こうして完璧主義は、行動と現実についての認知を腐食していきます。

 こうなると完璧主義者が抱く目標は、当人の能力・時間内では決して到達しないところにまで高められ遠ざけられます。

 そして当人の認知は現実の可能性ではなく、当人の能力・時間不足や性格特性、あるいはそれらを生み出した過去のトラウマに注がれるばかりで、あるいは決して選ばれることのない複数の選択肢の間で右往左往することで消耗させられ、ますます現実を把握することには割かれなくなっていきます。

 ずっと理想や過去のことばかり考えていられるのならよいのですが、あいにく我々は肉体を持っており、現実世界につなぎ留められています。生きていくためには、理想と違う行動もしなければならず、不完全な現実に目をふさぐわけにもいきません。

 完璧主義を続ける以上、認知上の齟齬と、そこから生まれる苦しみは、大きくなりこそすれ、小さくなることはないでしょう。行動もますます遠ざけられ、セルフイメージは完璧主義者でも、他人はあなたをぐずぐず主義者と呼ぶことになります。

 一挙に事態を変えるものはあり得ません(そんな「銀の弾丸」を求めることもまた完璧主義の一症状です)。

 完璧主義がどんな要素の連なりから悪循環を構成しているかはご説明しました。それらをひとつひとつ変えていく地道な作業しか可能性はありません(この方法の基本は、『独学大全』でも「1/100プランニング」「2ミニッツ・スターター」「逆説プランニング」として紹介しています)。

1.行動するかしないか躊躇したら、行動することを選ぶ
2.成功しないかもしれないと恐れたら、失敗するために敢えて行動する
3.失敗を恐れて足が止まったら、「失敗しても死なない」と10回唱えて、失敗を味わうことでその恐怖を和らげる練習としてやってみる
4.無自覚に(高い)目標を抱いてしまったら、数値化し、その1/100か1/1000に書き換える
5.毎日、「やっても無駄だとおもうこと」を2分間だけやってみる
6.毎日、愚かな行動を一つ試す
7.毎日、とても些細な間違いをわざとやってみる。(レポートの最後の文の句読点をひとつ忘れるなど)。
8.前に試してうまく行かなかった行動を思いだし、毎日一つ実行する
9.毎日、意味のない行動を一つ試す
10.「理想が高すぎる」などの美言で、自分を偽らない