インターネットの「知の巨人」、読書猿さん。その圧倒的な知識、教養、ユニークな語り口はネットで評判となり、多くのファンを獲得。新刊の『独学大全──絶対に「学ぶこと」をあきらめたくない人のための55の技法』には東京大学教授の柳川範之氏「著者の知識が圧倒的」独立研究者の山口周氏「この本、とても面白いです」と推薦文を寄せるなど、早くも話題になっています。
この連載では、本書の内容を元にしながら「勉強が続かない」「やる気が出ない」「目標の立て方がわからない」「受験に受かりたい」「英語を学び直したい」……などなど、「具体的な悩み」に著者が回答します。今日から役立ち、一生使える方法を紹介していきます。(イラスト:塩川いづみ)
※質問は、著者の「マシュマロ」宛てにいただいたものを元に、加筆・修正しています。読書猿さんのマシュマロはこちら

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[質問]
自分が正しいと思ってることを人に押し付けていると言われました。

 考えてみれば、人の話を聞いていない、人に否定されるのが嫌い、言い方がキツい、謙虚さが足りない、と評価されてきました。全て同じことのように思います。そして、自分がとてもダメな人間であるとも思い、どうにか克服したいとも思います。どこから直していけばいいでしょうか。性格がすぐに直るとも思えず、どうしたらいいかも検討がつきませが、嫌な性格を変えたいです。

あなたの周囲の人は、言葉を雑に扱っている

[読書猿の解答]
 雑すぎる言葉をあなたも周囲の方も使っておられるせいで、たとえるなら、数ミリ切るだけで日帰りできる手術で済むところ、患部を取り除こうと散弾銃を撃って大惨事になっておられるようです。

 たとえば「自分が正しいと思ってることを人に押し付けている」というのがどういうことなのか、あなたも周囲の方もてんで分かっておられないので、性格を変えたところで何一つ良いことは生じないでしょう。

「自分が正しいと思ってることを人に押し付けている」のどこがデタラメなのか。もしこの発言の内容が本当ならば、あなたの主張は正しく、なおかつあなたはその正しさを相手に押し付ける力を持っているはずで、相手はそんななめた口をきいていられず、即座にあなたに従っているでしょう。

 つまりこの発言者は態度と内容とで矛盾したことを述べています。すなわち「あなたの言うことなど内容がどうあれ(たとえ正しかろうと)最初から聞く耳を持たない」「お前には正しさも押し付ける力も何もない」と。

 このように考えれば、「人の話を聞いていない」「人に否定されるのが嫌い」「言い方がキツい」「謙虚さが足りない」などはみな、あなたの言うことに聞く耳を持たない周囲の人の行動そのままです。

 言葉を雑にしか使えない周囲の人は、悪口のボキャブラリーすら貧困で、あなたを責め立てるのに、自分の行動パターンを語り直すくらいしか、できないのでしょう。

 もう一つ指摘するなら、本当に性格の悪い人間は、他人から自分の性格について非難めいたことを言われたら、相手の主張を部分的にでも認めたり、そのまま流したりしません。必ず報復して、これ以上舐めたことを、その人にもまた別の人にも、言えないようにします。

 従って周囲の人はあなたを「性格が悪い」と思っているわけではなく「性格を貶しても反論ひとつできない臆病者」と見なしているのだと推察します。

 このように普段からいい加減な言葉を振り回している周囲の人は、言葉の意味など自分の権力で自由にできる(と思い込んでいる)閉鎖空間で、ぬるい言語生活を送ってきたので、正確に言葉を使う意義や言葉の力を信じず蔑んでいるのでしょう。

あなたは性格が悪いのではなく、被害者

 冗談ではない。言葉は万能ではありませんが、それなりに力を持っています。

 まずあなたの窮状をましな言葉で言い表しましょう。あなたは性格が悪いのではありません。周囲にひどい扱いをされた上に、その原因と責任まで押し付けられているのです。こうした事態を表すのに犠牲者非難または被害者非難(victim blaming)という言葉があります。

 現代では、性格は犠牲者非難の宛先として頻出のものです。過去には「生まれ」や「育ち」がよく宛先になりましたが、現代でこれをやると、まともな集団なら差別として非難されるからです。また、あなたの性格をどうこう言う人があなたの家族なら、生まれや育ちが悪いと言いたくないでしょう(本当は「性格が悪い」だってほとんど同じことですが)。

 何から直していけばいいかとお尋ねなのでお答えします。あなたには力が必要ですが、それは一朝一夕には得られません。しかし正しい言葉なら、今日からでも身につけることをはじめられます。

正しい言葉は、正しく事態を認識することを助け、また正しく事態を認識できる人から助けを得られる可能性を高めます。必要なら、具体的な方法をお尋ねください。