柴田医師が慢性痛の治療に携わり始めた1980年後半、治療のメインは「神経ブロック注射」――痛む部位の神経付近に麻酔薬等を注射することで痛みを取る治療法だった。

「佐賀医科大学のペインクリニックに国内留学した私は、上から言われるまま、患者さんにせっせと神経ブロック注射をしていました。しかし神経ブロックでは慢性痛の根本的な解決にはならないのに、注射し続けるのはよくないのではないかと疑問に思い、あるとき上司に質問すると『心配するな、(患者は)そのうち来なくなるから。長く注射し続けることにはならない』と言うんですね。実際、患者さんはいつの間にか来なくなる。痛みが消えるからではありません、治療を諦めるからです」

 割り切れない思いを抱えて相当悩んだが、新米医師に何かできるような世界ではない。1年の留学期間が終わり、阪大に戻った後は拡充されたペインクリニック専門外来で主要メンバーとして勤務。相変わらず神経ブロック注射をつづけていたが、ある日後輩から、過日の自分が発したのと同じ疑問をぶつけられ、ハッとした。

「神経ブロックでは患者さんの苦しみを解決できない。ではどうしたらいいのか。真剣に追求し、考えるようになりました」

集学的治療の極意は
3人寄れば「文殊の知恵」

 追求し、考え抜いた末にたどり着いたのは「集学的治療」。複数の職種の医療者が協力して診療にあたる治療法で、慢性痛の場合は種々の領域の専門医をはじめ、理学療法士、作業療法士、公認心理士、薬剤師、看護師、栄養士、MSW(医療ソーシャルワーカー)がチームで行う。

 その有効性は徐々に認められ、普及しつつあるが、柴田医師が大阪大学で開始した当初はめずらしく、評判を聞きつけてわざわざ遠方からヘリコプターをチャーターして訪れた患者もいたという。

「決してお金持ちの方ではなかったのですが、腰が痛くてどうしようもなかったんでしょうね。親に借金したと言っていました」

 命にかかわるものではないと、医療現場ではあまり重要視されないところもある慢性痛だが、当事者である患者にとってはそこまでしてでも診てもらいたいほど、耐え難いものなのだ。また、同じ集学的治療でも、柴田医師のそれには他の医師や病院とは異なる特徴がある。