ゲーム理論の研究者にして、米アマゾン・ドット・コム、米イーベイなどにも在籍してきた米国企業が注目する経済学者がスティーブン・タデリス氏だ。特集『最強の武器「経済学」』(全13回)の#4では、タデリス氏に単独インタビューを行い、日本企業が押さえておくべきゲーム理論の知見や、ビジネスに活用する際のポイントなどを伝授してもらった。(ダイヤモンド編集部 竹田幸平)
インターネット上の広告枠はほぼ全て
「オークション」理論が応用されている
――米国ではビジネスに経済学の知見を生かす動きが活発だと聞きますが、日本企業の場合はこのような考え方はまだほとんど広がっていません。ビジネス界でゲーム理論がうまく活用されている例にどのようなものが挙げられるか教えてください。
まず、ビジネスの世界で最も成功したゲーム理論の分野として「オークション」が挙げられると思います。現実の世界において、特にビジネスの領域では、この考え方が“美しく”適用されることがあります。
ノーベル経済学賞が今年、オークションについて研究する2人に授与されたことが興味深いと思うのは、テクノロジー企業の間で昨今、オークションが非常に重要な役割を果たしているからです。端的に言えば、全てのオンライン広告はオークションを使うことで、その枠が各広告主に割り当てられています。例えばあなたが米グーグルのウェブページにアクセスしてキーワードを検索すると、いわばそのたびにオークションが実行されているわけです。
そしてオークションのルール次第で、入札への参加の難易度や結果の透明性が規定されます。グーグルやヤフーの検索エンジン、イーベイやアマゾン、他の企業のオンライン広告についても全て、オークションの仕組みを活用する形で、広告主にインターネット上の広告枠を割り当てているわけです。これこそが、ビジネスの世界でゲーム理論が最も目に見えて成功した実用例の一つです。
――アマゾン(2016~17年、「経済学およびマーケットデザイン」担当のヴァイスプレジデント)やイーベイ(11~13年、リサーチラボのエコノミストおよびシニアディレクター)に在籍していた際は、経済学の知見をどのようにビジネスに生かされていたのか、自身の経験から教えてください。