最強の武器「経済学」#13
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経済学はゲーム理論や行動経済学の知見を深めながら、もう一つの武器を手にしている。「因果推論」といったデータ分析の手法だ。特集『最強の武器「経済学」』(全13回)の最終回では、ビジネス革新の新トレンドとなりつつある、「AI×経済学」に挑む日本企業の取り組みを追った。(ダイヤモンド編集部 竹田幸平)

「機械学習×データ分析」だけでは
思わぬ“落とし穴”にはまってしまう

 AI(人工知能)時代を迎えた今、ビジネス界では深層学習や機械学習を用いたビッグデータ分析などが盛んに行われている。だが実は、これらをきちんと機能させるためには、経済学の知見が欠かせないということをご存じだろうか。

 その背景を理解するため、改めて簡単に経済学の流れを振り返ってみたい。まず、本特集でこれまで解説してきたように、現代経済学の2本柱となっているのがゲーム理論と行動経済学だ。

 ゲーム理論はプレーヤー同士が手の内の読み合いを繰り広げるような戦略的状況を分析する学問として、20世紀からこれまで発達を遂げてきた。そして理論的に構築した戦略的状況について実験しやすい面を持ち、実験による研究を促進する役割も果たしてきた。

 さらに、実験によって得られたデータを使い、人間のさまざまな非合理にスポットを当て、掘り下げていこうという行動経済学が台頭してきた流れがある。このようにして、両者にまたがるような実験の手法は蓄積が進み、実験室の中から広く社会全体へと対象を広げていった。

 こうした理論モデルの仮説・検証プロセスにおいて確立され、経済学の強力な武器となっている存在が、データの中から因果関係を推測する「統計的因果推論」という手法である。現実社会のデータを扱って理論や仮説の精度を高めるための革新的なツールといえる。

 片や、現実世界の中ではビジネスでも活用される新たなテクノロジーが次々と台頭してきた。その筆頭が機械学習や深層学習を包括するAI技術全般であり、それらを使った分析の対象となるビッグデータの存在だ。

 GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン・ドット・コム)をはじめとした米国の巨大テック企業などでは、上図のような台頭著しい新技術に加え、経済学者を積極的にヘッドハンティングするなどして、必要に応じ経済学の知見も取り入れてビジネス革新を促そうとしている。

 一方、日本企業の間では経済学を生かす動きは鈍いのが現状で、上図でいえば、左側の新技術に偏るような形で関心が集まっている。なぜ、世界の巨大テック企業が経済学を重視するかというと、実は、機械学習によるデータ分析だけでは、誤った結果を導き出す“落とし穴”にはまってしまう可能性があるからだ。