先延ばしする癖や気まぐれなど人間の合理的でない部分に注目し、そのメカニズムを教える行動経済学。こうした人間の不合理や、心理の癖に企業も目を付ける。内外の企業によるナッジ理論の応用事例も増えてきた。生命保険への応用、節電、貯蓄行動への活用など、特集『最強の武器「経済学」』(全13回)の#7では企業のナッジ活用の最前線を取り上げる。(ダイヤモンド編集部 篭島裕亮)
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行動経済学の知見を使った健康増進型保険
世界各国の公共政策に導入されている「ナッジ」。日本語にすると「軽く肘で突く」という意味で、「行動経済学」の知見を使って人間の行動をいい方向に導く手法だ。
注意したいのは、ナッジは「人々が賢い行動を取る」ことを引き起こす行為である点。
「行動経済学の知見を使って、本人が希望していない選択肢や社会的に正しくない行動に導く『悪いナッジ』について、(ナッジ理論の提唱者で2017年にノーベル経済学賞を受賞した)セイラー教授は『スラッジ(sludge、ヘドロ)』と呼んでいます」(竹内幹・一橋大学大学院経済学研究科准教授)
ナッジとマーケティングは混同されやすいが、企業が日々知恵を絞るマーケティングは、必ずしもナッジのように品行方正ではない。企業の稼ぎを大きく左右するからだ。
そのため、公共政策と比較すると行動経済学やナッジを企業活動に取り入れていると明言する企業は多くない。企業が「行動経済学的なバイアスを利用してもうけています」「ナッジを使って希望していない選択肢に導いています」などと明言すれば、不興を買う恐れが大だ。
ただし、行動経済学を企業活動に取り入れていると宣言する企業がないわけではない。代表例が住友生命保険の健康増進型保険「Vitality(バイタリティ)」で、バナナマンを起用したCMでも「行動経済学」を前面に打ち出している。