行動経済学とゲーム理論は、断トツで“使える”ビジネスパーソンの武器だ。それらをビジネスで使いこなすためには、何がポイントになるのか。行動経済学の泰斗、大竹文雄・大阪大学大学院教授と、気鋭のゲーム理論研究家、安田洋祐・大阪大学大学院准教授が語り尽くす。特集『最強の武器「経済学」』(全13回)の#5は、#3に続く対談【後編】をお送りする。(ダイヤモンド編集部論説委員 小栗正嗣)
「損失回避」「現在バイアス」…
行動経済学を使いこなすにはここに注意!
――行動経済学の損失回避、現在バイアスなどは、ビジネスの現場でどんなふうに活用されていますか。
大竹 フレーミングの話は、参照点をどう設定するかということです。例えば、商品の価格が安くなるときに、「今買うとこれだけ得ですよ」と訴えるか「今買わないとこれだけ損しますよ」という表現にするか。このとき、損失の方のインパクトが大きいわけですね。
ただし、注意事項もあります。1回限りの行動については損失の方がはるかに強力に効きますが、何度繰り返しても効果があるわけではない。損失強調ってつらいことなので、あまり聞きたくない。習慣形成には利得の方が効くことが多いようです。
安田 値下げとか新商品の広告でも「いついつまではこの価格です」と言われるより、「いついつまでしかこの価格で買えない」の方が、「じゃあ急いで買わなきゃ」となりますよね。これも、損失フレームを使ってより注目を集める戦略です。
大竹 現在バイアスを利用したビジネスも結構あります。例えば、自分は先延ばし傾向があると感じている人が多いわけですね。放っておくと将来サボってしまうと。そこで、例えばジムの料金をあらかじめ前払いをすることで、「もったいないからちゃんと行く」と仕向けようとする。ただし、お客が先払いしても実はなかなか来ないことを、ジムの方はさらに承知した上でそろばんをはじいている。現在バイアスを二重に利用しているんだと思いますね。
多くの人が天引きで貯蓄をするのも、現在バイアスが分かっているからですよね。伝統的経済学の合理的経済人は余裕があるときに貯金をするはずですが、それだとずっと先延ばしをして結局貯金をしなくなる。それが分かっているから、余裕があるときもないときも一定額の貯金をする。現在バイアスへの対応策であり、多くの人にとってはいい戦略になります。
――ゲーム理論と行動経済学のアプローチが重なる部分はありますか。