熊倉さんが特に気を配っているのは、酒やタバコ、薬物などの物質を使用している人や、ギャンブルなどから金銭的な困難へと至る人々だ。特に「自己責任」とされやすいギャンブル依存症は、丁寧に本人の話を聴くことを心がける。よく見られるパターンは、ギャンブルで所持金がなくなり、路上生活となり、支援団体につながり、施設に入所し、しかしギャンブルで所持金がなくなり、路上生活……という繰り返しであるという。

「ご本人は、精神科を受診することに対しても嫌悪感を持っていることが多いので、ここで話しながら、『まずは住まいから』という感じですね」(熊倉医師)

逃げ出して路上生活に戻る
その繰り返し

 現在の困難の背景は、幼少時の経験にあることも少なくない。

「よくよくお話を聴いていくと、子どもの時の逆境的な体験が語られることは、よくあります。親に支配されたり、暴力を受けたり、思ったことを言えなかったトラウマであったり」(熊倉医師)

 そのようなトラウマは、本人も意識していない間に、行動のパターンとなってしまっている場合がある。

「たとえば施設に入所していて、ギャンブルで失敗してお金がなくなってしまったとき、施設のスタッフや支援者にそれを言えなかったりするんです。ご本人は、『言ったら怒られる』『どうせ聞いてもらえない』と思い込んでいますから。そんな時、過去の暴力的な体験がフラッシュバックしていることがある。だから、そこから逃げ出して、路上生活に戻ってしまう。そんな、その人の人生で繰り返されるパターンのようなものが見えてくることがあります」(熊倉医師)

 精神科医として、何ができるだろうか。

「まずは、本人がこれまでにとてもつらい体験をしてきたということを、語られるがままに聴くことが大事だと思っています。トラウマの影響がある、つまり、本人のせいではなく、過去にとてもつらいことがあったせいだということは、気付いた時には口にするようにしています。トラウマの治療は長期的に、まずは生活が落ち着いてからですね。ここでは、『また同じようなパターンが繰り返されてしまう可能性はあるかもしれないですね』ということをご本人と共有しつつ、『何かあったらまたここに来てください。何回でも、やり直しましょう』とお話ししています」(熊倉医師)

 そういう場があり、そういう医師がいるだけで、心強いだろう。しかし、意義はそれだけではない。