中央銀行の素早い危機対応が
バフェットには逆風になった理由
では、どうしてこういう投資行動になったのか、ここで解きほぐしてみよう。まずは、3月の急落場面である。
連邦準備理事会(FRB)は3月15日にはゼロ金利政策を復活させ、17日には企業が発行するコマーシャルペーパーを買い入れる緊急措置を発表、米国債などを無制限に買い入れる量的緩和も再開した。このように、FRBは企業や個人にいち早く安全網を敷いたわけだ。バフェットも、このFRBの迅速な対応には称賛の言葉を発しているほどだ。
ところが、このFRBの緊急措置がバフェットには逆風となる。企業から、資金提供の要請が来なかったのだ。
2008年のリーマンショック当時は、いわば経済の血流が止まり、資金繰りに窮したゴールドマン・サックス、GEキャピタルはバフェットに助けを求めた。バフェットはこの時に2社の優先株を利回り10%で計100億ドルも引き受けた。
しかし、今回はFRBがいくらでも資金を供給するので、企業はそれに頼って生き長らえるというわけだ。3月の急落場面で、バフェットのオフィスは静かなものだったのだ。60年来の盟友で、バークシャー・ハサウェイの副会長のマンガーは、当時の様子を「バフェットの電話は、線が外れたようなものだった」といっている。
読者の皆さんは、「声がかかるのを待っていないで、市場で買えばいいではないか」と考えるかもしれない。しかし、バークシャーに滞留する現金同等物は当時1370億ドルだ。大荒れに荒れた市場で、この数分の1の金額でも、市場で拾っていくのは、かなり大変なことになる。資金規模の大きさが足を引っ張っている形だ。
投資の神様が航空株を損切りした本当の理由
さて、次は4月の4大航空株の売りである。バフェットは、2016年にPER7~8倍の4大航空株を各々10%ほど、日本の5大商社を買ったと同じように割安感から買った。
実はバフェットはそれ以前は「航空株は過当競争で収益が上がらない」といって避けていた。それなのになぜ買ったのかと問われ、「航空会社は経営を立て直し、収益重視の経営に重きを置くようになったからだ」と評価を変えたことを打ち明けた。
そのバフェットが今年4月に買値のほぼ半値という水準で、しかもその後の推移から見ても、最安値という水準でどうして売ったのか、バフェット自身の言葉で紹介しよう。以下は今年のバークシャーの無人総会での発言である。
「価値判断を間違ったと決めたからだ。サイクリカルではある(景気に左右されやすい)が、会社をまとめて買ったように見ていた。よく経営されていた。しかし飛行機が空(から)ということは楽しいものではない。私もしばらく飛行機に乗るなと言われた。(この判断は)間違いかもしれないが、航空業界は大きく変わったと見ている。ビジネスが70~80%戻っても飛行機が余る。2~3ヵ月前にはそうではなかった。しかし、世界は変わった。エアラインビジネスに起こったこと自体が、貧しいと感じさせる。それで、売りの説明となる」
これが吐露するようにバフェットが語った航空株売りの説明である。