「ウィズコロナ」こそ、アマゾン化の時代の到来を告げる合図
このように、アマゾンは批判を浴びたり、予想外のコストに苦しめられたりしているものの、コロナウイルスとの共存を迫られる「ウィズコロナ」の時代には、いっそう強力な存在として浮上してくるだろう。
第一の理由は、パンデミックが消費者の買い物習慣を変えてしまったことだ。以前から小売業の世界ではオンライン化が進んでいたが、今回の危機がその流れを加速させた。家にいることを余儀なくされた人々は、特に生鮮食料品のような商品をオンラインで購入することの利便性を認識したのである。
2017年に高級食料品スーパーのチェーンであるホールフーズを買収したアマゾンは、パンデミックの期間に、食料品の注文が60%も上昇した。ウイルスが封じ込められた後も、アマゾンの食料品事業が好調を維持するだろうことは容易に想像できる。金融サービス大手のRBCは、主にオンライン販売に牽引されているアマゾンの食料品総売上高が、2023年までに880億ドル〔約9兆2000億円〕に達するだろうと予測している。これは2020年の水準の約2倍に相当する。
アマゾンは、従来のEコマース事業がこれまで以上に拡大することにも賭けている。ある調査によると、2020年にはアマゾンの顧客の64%が月に2~3回の買い物をしており、これは19年の54%から増加している。同時に、同社はパンデミックに対応するために臨時雇用した作業員のうち、約12万5000人をフルタイム労働者として維持すると発表した(これはパンデミック前の16%増となる)。
パンデミック後の世界では、アマゾンはウイルス対策のために必要となったコストと、時間のかかる安全対策をすべて取り払えるので、拡大するオンライン市場に対して、1日以内のさらにスピーディーな配送サービスを提供できるようになる。そして、2018年から20年初頭までに5000万人増加し、世界全体で1億5000万人となったアマゾンのプライム会員が、今後も急成長を続けることは想像に難くない。
第二の理由は、購買以外の面でも生活行動の変化が生まれていることである。アマゾンが保有している事業の中で最も収益性が高いのは、世界最大のクラウドコンピューティング・サービスであるAWSだ。今やほとんどの人が自宅で仕事をしたり、授業を受けたりしており、多くの人々がズーム〔AWSで動作している〕などのビデオ会議プラットフォームで会議を行うようになったことで、AWSのビジネスはより強固なものになっている。
さらにパンデミック期間は、消費者はゲームやネットフリックス、プライム・ビデオなどのストリーミングメディア・サービスを利用する時間が増えたが、これらのサービスはもちろん、AWSのサーバー上で稼働している。航空会社やホテルなど、壊滅的な影響を受けた業界での利用を失ったにもかかわらず、同部門は2020年の第1四半期に33%の成長を遂げた。
第三の理由は、アマゾンの自動化の取り組みが、ウィズコロナの世界で求められるソーシャルディスタンスの実現と合致している点である。大半の商品がロボットや自動運転の配送車によって処理され、人から人へのウイルス感染のリスクが抑制されているサプライチェーンを想像してみてほしい。これはCOVID-19の第二波以降の到来や、別のパンデミックが発生するたびに、アマゾンに競争上の優位性を与えるだろう。
本書で詳しく解説しているように(第8章、10章参照)、アマゾンは完全に自動化された倉庫への最終ステップとなる、棚から製品を取り出したり収納したりできるロボットを開発しており、自動走行車用のソフトウエアを作るシリコンバレーのスタートアップ企業、オーロラに出資している。また、アマゾンはトヨタと提携し、配送用の自動運転バンも開発し、配送用ドローンも実用段階に入った。これらの取り組みは、アマゾンのサプライチェーンをよりウイルスに強いものにするだけでなく、多額の人件費の節約につながる可能性がある。