メインバンクが難色を示した再建案

「何ごともなければ、2代目社長、清川和彦の妻として、ずっと主婦業に専念したでしょう」。清川氏は一見すると、剛腕ビジネスパーソンにはとても見えない。むしろ、外で仕事をしたことのない“奥さま”といった印象を受ける。

 実際、結婚当初は夫である社長のサポートを心がけた。だが、会社の書類に目を通したり、新聞や雑誌の大事な部分にマーカーを引いて社長に渡すことを日課にしているうちに、自身も経営に関心を持つようになった。銀行や取引先の経営者と会う機会も多く、大きな刺激を受けた。

 そのうち、タイヨーや関連会社で働き始めた。赤字部門の立て直しや、新業態の立ち上げに関わるようになり、現場で仕事をすることに生きがいを感じた。

 出戻って知った会社の窮状を誰よりも危惧し、一刻も早く手を打たねばとMBOに踏み切ったのは、かつての現場の経験によるところが大きい。

 2013年早々、清川氏はMBOの準備に取りかかったが、ハードルは高かった。株を買い戻す巨額の資金を調達する必要があったが、あてにしていたメインバンクの地元銀行はMBOに反対だったのだ。幸いメガバンクが支援してくれることになった。

 立て直しのための事業計画立案にも、初めは途方にくれたという。だが人件費が膨らむ理由には心当たりがあった。人に仕事がつき、誰もが自分の仕事しかしなくなり、忙しさに関係なく、店にはいつも大勢のスタッフが常駐するようになっていたのだ。

 「他にもやれることはたくさんあると思えました。ひとりの主婦としてお店を訪れた時、満足できないことはたくさんありましたから」(清川氏)

 主婦として、消費者としての自分の感覚をよりどころに事業計画書を作り、2013年7月末、取締役会でMBOを決議し、発表した。

 世間は決して好意的ではなかったという。業界紙はタイヨーの経営悪化をスキャンダラスに取り上げ、MBOを批判する怪文書が飛び交った。「素人に何ができる?」という声も聞こえた。