「確かに私は経営の勉強をしたことがない素人でした。でも、誰もが都合のよい資料を都合よく解釈している中、『それはおかしい』と口にしたのは私だけでした。かつて監査役だった経験から、会社の現状の数字は私が最も理解している。その自信はありました」(清川氏)。

 同年9月1日、全株式のうち98%を買い戻すことができた。MBOをやり遂げたのだ。

会議が多すぎて店長が現場に出られない!?

 MBO後、まず、取りかかったのが、タイヨーで働く人たち全員に、会社の状況を正確に知ってもらうことだった。自分たちが現在、働いている店や部門はどうなっているのか。赤字に陥っている状況を包み隠さず公にすると、緩んだ空気は吹っ飛んだ。

 さらに、これまで「おかしい」と思っていたことを次々と改善していった。

 1階と2階に分かれていた本部を、ひとつのフロアに統合した。社員同士が上下で電話連絡している様子に以前から違和感を持っていたからだ。引っ越しの手間に不平顔の社員もいたが、やってみると不要な書類をはじめ、無駄なものを一掃できた(新型コロナ感染防止のため、現在は本部を4フロアに分散させている)。

専業主婦は、経営危機のスーパーチェーンをどのようにして立て直したのか清川照美(きよかわ・てるみ)/株式会社タイヨー取締役副社長。元東証二部上場の㈱タイヨー2代目の妻として主婦業に勤しんでいたが、同社の監査役や取締役として経営に参画するようになる。関連会社の代表取締役として、新業態の開発や既存店の立て直しに貢献。2013年、MBOを進めてタイヨーのスピーディーな社内改革を実現させた。6年半で300億円の借金を返済するなど経営手腕を発揮した。2019年慶應義塾大学大学院経営管理専攻の修士課程修了。現在も司令塔として管掌、タイヨーの改革を進めつつ、ケア・サポーターズクラブ鹿児島会長を務めるなど地域貢献にも尽力する。

 経営会議、企画会議、店長会議……と月曜から金曜まで、しかも早朝から深夜までびっしりあった会議をバッサリと削減し、毎週月曜日だけにした。

 議論する課題については5W1Hで説明を求めた。「なぜ、この課題を話し合う必要があるのか。そこから問い直し、何をいつまでどのように進めるのかを聞きました。基本的なことですが、実際にやってみると、提案する社員は的確にものごとを伝えられますし、何より無駄に時間を使うことはなくなりました」(清川氏)

 以前は同じ議題を次の会議でも取り上げたり、数カ月も繰り返し会議にかけたり、社員は会議のために追われるありさまだった。店長たちも会議の資料作りでバックルームにこもり、肝心の店頭に顔を出す機会を奪われていた。

 今は月曜の会議で社内の問題点や課題を挙げ、改善案、戦略案を出し、実行に移す。火曜以降の推移を見て検証を行い、翌週月曜日には新たな提案ができるようになった。1週間単位でPDCAサイクルが回り始めたのだ。(つづく)