「学ぶこと」をあきらめられなかったすべての人へ――著者からのメッセージ
一口に独学と言っても、学校や塾や予備校に頼らない自学自習から、所属機関を持たない独立研究者の在野研究、社会人の学び直しまで、意味するところは様々である。
本書では、以上の分析からもわかる通り、「独学」の意味するところを可能な限り広く捉えている。これは冒頭に述べた独学者の定義と、独学者を援護するという本書の目的から半ば必然であった。何を目指す人であれ、またどの段階にいる人であれ、自ら学びの中に飛び込む者(独学者)を捨て置くわけにはいかなかった。
しかし、それだけでなく、知的営為を分類し無用の垣根と階梯を設けることは、益よりも害が多いと信じるからでもある。例えば「学習」と「研究」を別物だと分断するより、同じ知的営為という連続体の一部としてみなした方が得られるものは大きい。
何より、そうすることで我々は歴史の中に多くの独学の先人を見出すことができる。誰もがその名を知る知の探求者たちの仕事は見上げる程に高く大きいが、彼らの知的営為は我々のそれと確かに陸続きである。でなければ、なぜ、彼らの知ったこと考え抜いたことを、我々が今この場所で読み、我々の糧にすることができるのだろうか。
加えて、彼らもまた必ずしも恵まれなかった状況でその知的営為を続けたのだと知ることは、これから幾多の困難を越えようとする我々を勇気づけるだろう。彼らの存在が知らせているのは、それでもヒトは知ることを、学ぶことをあきらめることができなかったという事実である。
このような独学を援護する書物を書く資格が私にあるか正直疑わしい。けれども、この本を書かなければならない義務のようなものなら確かに私にあると思う。私は、今も悪戦苦闘を続ける一人の独学者としてこの本を書き上げた。この本に書いた内容は、私が今まで続けてきた独学の経験に由来するとともに、より多くを独学の先人たちに負っている。そうして受け取ったたくさんのものを、私は次の人たちに手渡す義務があるだろう。私がもっと賢い、あるいは忍耐強い人間であったなら、おそらくまったく違った本を書いていたはずだ。しかしその本は、今の私よりもずっと賢くて忍耐強い人にしか使えないものになっていただろう。
この本は確かにあまり賢くなく、すぐに飽きるしあきらめてしまう人たちのために書かれた。独学の凡人である私には、これが精一杯である。しかし独学の達人が書いた書物よりもきっと、繰り返し挫折し、しかしあきらめきれず、また学ぶことを再開したような、独学の凡人であるあなたの役に立つだろう。
知識の大海にこぎ出ていくあなたにエールを。お互いの航海の無事を祈りつつ。Bon voyage!
一生使えて今日から役立つ! 3つの工夫
【工夫①】「無知くんと親父さんの対話」でざっくり概要をつかめる
本書は独学者の手元に置かれ、悩んだときに必要な箇所(技法)を読めるつくりになっています。さらに「ざっと読んで概要を把握したい」「独学の結果を早く出したい」という方向けに、章の冒頭には「無知くんと親父さんの対話」がついています。これを15章分読むだけで、一番大事なポイントは読了できます。
【工夫②】「なぜ学ぶのか」「何を学ぶのか」「どう学ぶのか」を3部構成で完全網羅
既に勉強の目的が決まっている人は「Howどう学ぶのか」を扱った第3部から。自分が知りたいこと、分野を調べたいなら「What 何を学ぶのか」を扱った第2部から。そして、そもそも「Whyなぜ学ばなければならないのか」に立ち返るときは第1部から。あなたのゴールに合わせて深堀りできるつくりになっています。
【工夫③】あらゆる独学の土台になる「国語」「英語」「数学」の学び方も掲載
独学をする上で3つの言語「国語」「英語」「数学」(本書では、数学も言語のひとつと捉えています)がわかると、自分が扱える本や論文、ネットの情報などの幅がいっきに広がります。第4部では、この3つを学ぶときに大切な「骨法」と、「ある独学者」のケーススタディを掲載。1~55の技法をどう使えばよいかがわかります。
本書の主な内容
無知くんと親父さんの対話0 無知をどうにかしたいんです
序文 学ぶことをあきらめられなかったすべての人へ
本書の構成と取説
第1部 なぜ学ぶのかに立ち返ろう
<独学の足場を作るために>
第1章 志を立てる
無知くんと親父さんの対話1 学ぶことをやめない理由は何か
●技法1 やる気の資源を掘り起こす「学びの動機付けマップ」
第2章 目標を描く
無知くんと親父さんの対話2 夢は巨人の肩の上で見る
●技法2 学びの出発点を見極める「可能の階梯」
●技法3 学びの地図を自分で描く「学習ルートマップ」
第3章 動機付けを高める
無知くんと親父さんの対話3 まずは1分間、勉強しろ
●技法4 未来のミニチュアを組み立てる「1/100プランニング」
●技法5 重い腰を蹴っ飛ばす「2ミニッツ・スターター」
第4章 時間を確保する
無知くんと親父さんの対話4 何を捨て、何を選ぶか
●技法6 自分も知らない自分の行動を知る「行動記録表」
●技法7 クズ時間を生まれ変わらせる錬金術「グレー時間クレンジング」
●技法8 打ち込むためにトマトを回せ「ポモドーロ・テクニック」
第5章 継続する
無知くんと親父さんの対話5 挫折する人が考えること
●技法9 怠けることに失敗する「逆説プランニング」
●技法10 日課を習慣の苗床にする「習慣レバレッジ」
●技法11 やめられない、続かないを資源にする「行動デザインシート」
●技法12 独学の進捗と現在地を知る「ラーニングログ」
第6章 環境を作る
無知くんと親父さんの対話6 強い意志よりサボらない仕組み
●技法13 他人は意志にまさる「ゲートキーパー」
●技法14 会えない者を師と仰ぐ「私淑」
●技法15 共に読むことが開く知的共同体「会読」
コラム 金のない独学者に何ができるか
第2部 何を学べばよいかを見つけよう
<何を学ぶか自分で決める>
第7章 知りたいことを発見する
無知くんと親父さんの対話7 悩みをぜんぶ書き出せ
●技法16 脳内知識の棚卸し「カルテ・ クセジュ」
●技法17 古代弁論術に始まる自己問答「ラミのトポス」
●技法18 知的多角測量法「NDCトラバース」
第8章 資料を探し出す
無知くんと親父さんの対話8 「ググる」以外の武器を手に入れよう
●技法19 思い付きの検索を卒業する「検索語みがき」
●技法20 知の分類の航海術「シネクドキ探索」
●技法21 巨人の肩によじのぼる「文献たぐりよせ」
●技法22 調べものの航海日誌「リサーチログ」
第9章 知識への扉を使う
無知くんと親父さんの対話9 古典はあなたのために書かれていない
●技法の前に 運に頼らない本の選び方
●技法23 第一のレファレンスツール「事典」可能性としての博識
●技法24 第二のレファレンスツール「書誌」調査の達人からの贈り物
●技法25 第三のレファレンスツール「教科書」入門書・事典・書誌を兼ねた独学者の友
●技法26 欲しい書物と出会う技術「書籍探索」
●技法27 知の最前線に向かう「雑誌記事(論文)調査」
コラム 知のライフサイクル
第10章 集めた資料を整理する
無知くんと親父さんの対話10 最速の素人になる
●技法の前に 点の読書から線の読書、面の読書へ
●技法28 多くの文献を一望化する「目次マトリクス」
●技法29 文献のネットワークを掌握する「引用マトリクス」
●技法30 文献の群れを貫通して読む「要素マトリクス」
第11章 情報を吟味する
無知くんと親父さんの対話11 「トンデモ知識」につかまらないために
●技法31 デマの矛盾をあぶり出す「タイム・スケール・マトリクス」
●技法32 トンデモ主張を暴き出す「四分割表」
●技法33 主張の根拠を掘り起こす「トゥールミン・モデル」
第3部 どのように学べばよいかを知ろう
<学び方を学ぶこと>
第12章 読む
無知くんと親父さんの対話12 様々な読み方で再読する
●技法34 知らずに使っている最速の読書法「転読 Flipping 」
●技法35 必要なものだけを読み取る「掬読 Skimming 」
●技法36 文献と対話する「問 読 Q&A Reading 」
●技法37 決まった時間で読み終える「限 読 Timed Reading 」
●技法38 読書技術の静かな革命「黙読 Silent Reading 」
●技法39 身体に刻む読書の原初形態「音読 Reading Aloud 」
●技法40 読み手を導く読書の手すり「指読 Pointing Reading 」
●技法41 読むことを考えることに接続する「刻読 Marked Reading 」
●技法42 精緻に読むことに引き込む読書の補助輪「段落要約 Paragraph Summarizing 」
●技法43 難所を越えるための認知資源を調達する「筆写 Scribing 」
●技法44 すべての読書技術で挑む精読の到達点「注釈 Annotating 」
●技法45 思考訓練としての訳読「鈴木式6分割ノート」
●技法46 逆境を乗り越える要約注釈術「レーニンノート」
第13章 覚える
無知くんと親父さんの対話13 記憶の術(アート)よりマネジメント
●技法47 記憶法のコーディネートでメタ記憶を鍛える「記憶法マッチング」
●技法48 記憶障害の臨床でも用いられる文章記憶法「PQRST法」
●技法49 学習前後に描くことで準備する/定着する「プレマップ&ポストマップ」
●技法50 古代ギリシア発祥のイメージ技法「記憶術(ニーモニクス)」
●技法51 復習をモジュール化する記憶マネジメント法「35ミニッツ・モジュール」
第14章 わからないを克服する
無知くんと親父さんの対話14 「わからない」と共に旅をする
●技法52 思考の過程を声にする「シンクアラウド Think Aloud 」
●技法53 わからなくても迷わない「わからないルートマップ」
●技法54 解いた自分を資源とする「違う解き方」
第15章 自分の独学法を生み出す
無知くんと親父さんの対話15 独学者として人生を歩む
●技法55 自分という学習資源「メタノート」
第4部 独学の「土台」を作ろう
<あらゆるものを学ぶ土台になる力>
国語独学の骨法
●1 読めないことを自覚する
●2 おなじみ同士の言葉・概念の組み合わせを蓄える
●3 論理はそもそも対話である
●4 チャリティの原理 Principle of Charity
ある独学者の記録 国語
英語(外国語)独学の骨法
●1 ロンブ・カトーの分数式
●2 挫折なき塗り壁式学習法
●3 子ども辞典と事典はツールであり教材である
●4 会話、スモールトークを超えて
ある独学者の記録 英語
数学独学の骨法
●1 数学にネイティブスピーカーはいない
●2 想像力を止め、手を動かす
●3 理解は遅れてやって来る
●4 数学書は「終わり」から書かれている
●5 証明の読み書き(リテラシー)を身に付ける
ある独学者の記録 数学
あとがき
索引
写真提供、引用元一覧
独学困りごと索引