『独学大全――絶対に「学ぶこと」をあきらめたくない人のための55の技法』。この税込3000円超、788ページの分厚い1冊が、今爆発的に売れている。発売わずか1ヵ月半で7万部を突破し、書店店頭やネット書店でも売り切れが続出。ただ読むだけでなく、多くの人がSNSで「こんな風に学んでいます」「実践しています」と報告する、稀有な本だ。
興味深いのは、本書の著者が学者でも、ビジネス界の重鎮でもなく、インターネットから出てきた「一人の独学者」である点。著者の読書猿さんとは何者なのか? なぜこれほど博識なのか? そしてどんな思いから、この分厚い本は完成したのか? メディア初のロングインタビューで迫る。
今回は、独学を続ける方法について話を聞いた。
(取材・構成/樺山美夏、イラスト/塩川いづみ)

9割の人が知らない「学び続けられる人」と「挫折する人」を分ける1%の決定的な差

どんなに忙しくても昼休みの30分だけは本を読んでいた

――『独学大全』に掲載されていたプロフィールの「昼間はいち組織人として働きながら、朝夕の通勤時間と土日を利用して独学に励んでいる」という一文には、かなり驚きました。この大著を、働きながら書くのは相当大変だったのではないかと思うのですが、社会人になったあとは、どのようにして独学を続けてきたのでしょうか?

読書猿 20代の頃、社会人になって最初の3年間はものすごく忙しくて、午前2時、3時まで働いて土日もありませんでした。その頃は他のことは何もできませんでしたね。あまりに忙しすぎて、体調を崩したりもしていました。

 でもあるとき「昼休みの30分だったら本が読める」と気がついて。仕事でイヤなことがあったときも、本を読んでいるときだけは自分の思考の中にいることができました。そういうふうに読書で逃避する時間を、少しずつ増やしていった感じですね。本当はカントとか、数学書とか読みたかったんですけど、そこまでのエネルギーがなくて、柄谷行人とか読んでいる30分だけが幸せでした。

 本格的に独学を始めたのは、多忙な仕事が終わってしばらくした後、1997年に、今のブログの前身のメルマガを始めてからです。前回の記事にも出てきますが、僕はやはり書くこと、言葉を工作することが好きなんですね。もともと、書くために本を読んでいたわけですが、その工作を人に見てもらいたいと思うようになって。そのとき初めて「読書猿」を名乗ったんです。本に関することを何でも気楽に発信するようになって、独学する時間が増えていきました。

 さらにその10年後に今度はブログを始めて、読者からの反応が返ってくるようになってから、だいぶ鍛えられましたね。アホなことを書くとボコボコにされるので、「ちょっとは調べなきゃいけないな」っていうような感じで、独学により力を入れるようになりました。試行錯誤を繰り返しながら、読む本の数もどんどん増えていって、本の利用の仕方、扱い方がわかるようになっていったような気がします。

7回挫折しても、8回目にまた始めるかどうかで差がつく

――本の読み方が少しずつわかってきても、読書も学びも継続することが一番難しいです。私も含めて、『独学大全』を買ってやる気満々になった読者が、挫折しないためにはどうすればいいでしょうか?

読書猿 独学で一番大事なことは、「続けること」です。細かい勉強のハウツーで、大きな差はつきません。

 ほぼ100%の人が挫折するんですよ。人間ってそういうふうにできていて、これはもう「仕様」なので、魔法のような解決法はおそらくありません。僕も今まで挫折ばっかりですし、『独学大全』の校了前の数週間は、追い込みの校正で忙しくて、独学が途切れていました(笑)。

 でも、大丈夫。挫折したら、また始めればいいんです。僕もようやく落ち着いたので、今はキリスト教の神学について、少しずつ調べものを始めたところです。

9割の人が知らない「学び続けられる人」と「挫折する人」を分ける1%の決定的な差読書猿(どくしょざる)
ブログ「読書猿 Classic: between/beyond readers」主宰
「読書猿」を名乗っているが、幼い頃から読書が大の苦手で、本を読んでも集中が切れるまでに20分かからず、1冊を読み終えるのに5年くらいかかっていた。自分自身の苦手克服と学びの共有を兼ねて、1997年からインターネットでの発信(メルマガ)を開始。2008年にブログ「読書猿Classic」を開設。ギリシア時代の古典から最新の論文、個人のTwitterの投稿まで、先人たちが残してきたありとあらゆる知を「独学者の道具箱」「語学の道具箱」「探しものの道具箱」などカテゴリごとにまとめ、独自の視点で紹介し、人気を博す。現在も昼間はいち組織人として働きながら、朝夕の通勤時間と土日を利用して独学に励んでいる。『アイデア大全』『問題解決大全』(共にフォレスト出版)はロングセラーとなっており、主婦から学生、学者まで幅広い層から支持を得ている。本書は3冊目にして著者の真骨頂である「独学」をテーマにした主著。なお、「大全」のタイトルはトマス・アクィナスの『神学大全』(Summa Theologiae)のように、当該分野の知識全体を注釈し、総合的に組織した上で、初学者が学ぶことができる書物となることを願ってつけたもの。最新刊は『独学大全──絶対に「学ぶこと」をあきらめたくない人のための55の技法』

 続けられない人と続けられる人の違いって多分、せんじ詰めれば一つなんですよ。続けられない人は7回始めたら7回やめて、そこで挫折するんです。続けられる人は、7回始めて7回やめても、また8回目を始めるんですね。つまり、挫折する人より、やり直す回数が1回多いだけ。だから、何度挫折してもいいんです、また戻ってくれば。

「忙しくて時間がないから独学なんて無理」って言う人は、1時間なら1時間、まとまった時間をとって集中しないと勉強じゃないと思っているケースが多いんですけど、1日1分でも2分でもいいんですよ。『独学大全』も「こんな分厚い本は読み切れない」と思うんじゃなくて、毎日2分だけでも、気になったところを読めばいいんです。それが積み重なっていけば、まったく何もやらない人より確実に学びは増えていきます。

「明日を今日と違う日にしたいなら、学べ」って言うと、そうだねと、みんな思うんですが、「1日1分でもいい」というと、そんなバカな、という反応される。でも、他人なら絶対認めてくれないような小さい努力を、見過ごさず拾えるか、ちゃんと注意を向けられるかは、とても大事です。そんなことは親にも先生にもできない。できるのは独学者自身なんです。