「なぜ学ぶのか」がぶれなければ、挫折しても戻ってこられる

――さらに突っ込むと、8回目を始められる人と、7回で終わる人。この差はどこにあると思いますか?

読書猿 動機付けの違いですね。少し大げさな言葉で言えば「志」、つまり「なぜ学ぶのか?」をちゃんと意識できているか、またそれを適宜メンテナンスできているかではっきりと差が出ます。だから、『独学大全』の一番最初、「技法1」には「学びの動機付けマップ」を置いています。

9割の人が知らない「学び続けられる人」と「挫折する人」を分ける1%の決定的な差読書猿さん自身の「学びの動機付けマップ」
拡大画像表示

 他人や親、先生、あるいは本の著者は、今やっていることの「世間的(一般的)な価値」は教えてくれますが、「自分は何故これをしているのか」「自分にとってどんな意味があるのか」の答えは教えてくれない。というか、教えられないんです。努力の意味は、今の行動を自分の志に繰り返し結びつけることを通じて、自分でメンテナンスし続けなければいけないものなんです。

 もちろん「技法1」だからと言って、一番最初に「なぜ」を考えなければいけないわけではないです。目の前の「やるべきこと」から入ったっていい。ただ、自分の行動について、自分自身で意味付けをできない人は、どこまでいっても「やらされる」人にとどまる。強制がなくなれば続けられないし、好きにできる時間や余裕ができても「自分のやりたいことが分からない」状態に陥る。

「やりたいこと」は、待っててもどこかから降っては来ないんですよ。やりたくないけどやらなくちゃならないことを頑張っている時、「これをやっているのは○○をするためだ」と繰り返し行動と志を結びつけ意味づけることで、動機付けや志は養分をもらって育つんです。

――読書猿さんの場合、独学のきっかけとなったのは、小3のときの「虫屋のおじいさん」との出会いだったと『独学大全』に書いてあります。具体的にどんな影響を受けたのでしょうか。

読書猿 たまたま参加した子ども向けの野鳥観察会に来ていたおじいさんで、「わしは虫屋やった」と話し始めた老生物学者がいたんです。自分は子どもの頃からずっと虫をとってきて、虫は魚に食われ、魚は鳥に食われ、人間はどちらも食うことを考え始めてから、生き物ぜんぶのことを考えるようになったんやと、そういう話を聞かされました。

 本当に短い話だったんですけど、当時の僕は、自分と身の回りにいる生き物がすべてつながっているっていうことに衝撃を受けました。虫も森も、空も、海も、すべて生物の世界につながっているし、いろんな物事を知ることはバラバラの知識の結びつきをたどることにもなる。その話を聞いてから、虫なら虫、鳥なら鳥だけを説明している図鑑に満足できなくなりました。

 なぜ僕がこの話にそんなに衝撃を受けたかというと、もともと飽きっぽくて、他のことにすぐ目移りして知りたがる性格を、肯定してもらえたような気がしたからだと思います。

 子ども時代の話は前回の記事でしましたが、あれほど夢中になった図鑑も、プログラミングも、僕は結局途中でやめてしまっている。実は大人になってからも、大学で哲学を学んだけれども結局研究者の道を選ばなかった。

 何かに夢中になって潜り込むことはあっても、究めるところまではいかないのが、ずっとコンプレックスだったんです。その後も挫けそうになるたびに、老生物学者の話を忘れては思い出し、忘れては思い出ししていました。

9割の人が知らない「学び続けられる人」と「挫折する人」を分ける1%の決定的な差Photo; Adobe Stock

「10年先の人に向けて」ブログを書いている

――読書猿さんのように、自分で学んだことをブログに書いて誰かに発信するのも、独学の継続には有効ですか?

読書猿 ブログ、継続してないんですよね(笑)。僕は書くのに時間がかかるし、飽きっぽいんで、一つの文章を完成させられずに、途中で放り出すことになるんです。運のいい文章は、3ヵ月後とか半年後、再開して続きを書いてもらえるんですが、それもまた途中で投げ出して。こんな風なんで、一つのブログ記事を書くのに2年くらいかかることもあります。こんな書き方、全然、ブログっぽくないですね。まあ、長くかかった記事は、あんまり読んでもらえないんですけど(笑)。

 それでもブログをやめなかったのは、「もう、やめる」って言えるほど、頑張ってなかったからですかね。あと、さっきの2年くらいかかった記事とか、書くのに長くかかったものって、さらに何年か経った後に誰かに見つけられて、急に読まれるようになることがあるんです。書くのが遅いから時事ネタとか書けないんですが、逆に何年か経っても古くならないような記事になっているのかもしれません。そういう、ゆっくりとしたブログなんで、偉そうにいうと「10年先の人に向けて書こう」みたいな感じになってきた。ブログ記事を読んだ人から「学生の時に読みたかった」「10年前に読みたかった」と言われることがあるんですが、そういう意識でやってきたからかもしれません。

 長くやってるおかげで、ほんとに10年先の読者から、そんな反応が得られる。こういうブログを読んでくれる人の反応もあって助けてもらったから、続けてこられたんだと思います。本に書いた「独学は孤学ではない」という言葉。これを世界で一番実感しているのは僕自身かもしれません。

【大好評連載!】
第1回 9割の人が知らない「本を集中して読み続けられない」を解決するスゴ技
第3回 9割の人が陥る「なんでもいいから教養が欲しい病」の末路
第4回 9割の人が知らない「本は、古典を読め」という信仰が間違いである理由

9割の人が知らない「学び続けられる人」と「挫折する人」を分ける1%の決定的な差