学びたいことを見つけるには「悩みを書き出してみる」

――では「学びたいけれど、何を学べばいいかわからない」という場合はどうすればいいのでしょうか? 私もやる気だけはあるんですが、どこから手をつけていいのか迷っていて……。

読書猿 その悩みは、実は「独学者あるある」です。だから、『独学大全』でも第2部では「何を学べばよいかを見つけよう」というテーマを扱いました。独学では、どの分野/テーマを学ぶかはもちろん、学習にどんな教材を使うかも、どんなやり方で学ぶかも、全て独学者に一任されています。でも、それが難しい。特に、ほとんどの人は高校まで、ずっと学校から「言われるがままに」勉強をしてきていますから、余計に。

 自分が知りたいことを見つけるための一番初歩の初歩としては、まず「悩み」「困りごと」をどんどん書き出してみることですね。的外れでもいいので、単語やフレーズを書き並べてみる。それを自分で見て「これじゃないなあ」と思ったら、「これじゃない」と書いてみてください。そうすると、自分が忘れていた知りたいことを、ふとした時に思い出したりします。

 僕らには「生活」があるので、いつも知的好奇心だけを追いかける訳にはいきません。実際、困りごとを抱えていても、それを受け入れてしまっていて「知りたい」「解決するにはどうしたらいいか」という気持ちに変換できる人は少ないんです。

――でも、だからといってそこを絶対に他人に頼ってはいけないと。

読書猿 いやいや、他人には頼りましょうよ(笑)。たくさんの師匠に私淑できるのは独学者の特権です。リアルに師匠の二股三股するとややこしいですけど。でもね、どこかの「知の巨人」はあなたのことを知りません。巨人なりに悩んで考えて、何か良きものを残してはくれるかも知れない。でも、それは巨人の答えなんです。

 だからこそ『独学大全』ではこう言いました。「自分で何を学ぶかを決めるのが独学者である」。何を学ぶべきか「親切」にも教えてくれる既存の勉強本と、本書の最も違う点はここだと思っています。

「今すぐ成果を出したい勉強」にも使える

――『独学大全』で具体的に使われている調べものの技法は、図書館の現場で使われてきた「レファレンスワーク」と、人文系の研究者が使う「アカデミック・スキルズ」の2つを背景にしていると書かれていました。「自分は人文系の研究者ではなくて、ただ資格試験の勉強をしたいから関係ない」「自分は仕事のスキルとして役立つ勉強だけがしたいから関係ない」という声があるかもしれません。それにはどうお答えになりますか?

読書猿 大丈夫、資格試験にもちゃんと使えますよ。人文研究者の方法は「最強」というか、あらゆる勉強法の「上位互換」だと思うんです。

 学校で教わってきた板書をノートに写して問題集をとくみたいな勉強法しか知らないと、人文系の研究が何をやってるかわからないけど、逆に、人文系の研究を知ると、板書をノートに写して問題集を解くことが何をしているか(何をしていないか)よく分かる、というか。

 たとえば資格試験だと「過去問やれ」とかいうじゃないですか。で、正解は何だろうと問題をひたすら解いていくわけですけど、効率が悪いですよね。機械的に問いと答えのセットを暗記しても、使えない「知識」だし、忘れやすいし。

 人文系の研究法を知っていると何をするかというと、たとえば、過去問に注をつけていく。もちろん学び始めは何も知らないから、問題文どころか解答例を読んでも、そこに出てくる用語すら、分からないでしょう。でも、例えば文献学者や歴史学者が解読しなきゃならないテキストに比べれば、ものの数ではない。テキストや他の資料を参照しながら、まずは不明な言葉や用語に注をつける。それから、なぜこの答えになるのか分からないところにも、解説を書き加える。当然何度も読み返しながら、です。

 注を付けながら読んでいくと、問題を作っている人が何を考えているか、どれくらいの知識を持っていてどの程度の知的水準なのか、あと、なにを隠そうとしているか、つまりどんな風に受験生を騙そうとしているかとか、フェイクの選択肢はどれか、まあ全部わかる。文学作品なんかと比べて相当底が浅いテキストなんで当たり前ですが。最速で、自分が問題を作れるレベルになれる。

 自分の方がよい問題を作れるレベルにまでなったら、簡単に合格できますよね。

 なんでこうなるか、種明かし的なことを少し説明すると、知的営為の半分は、(複数の)テキストを読んで別のテキストを生み出すことからできているからです。そして人文系と仮に呼んでいる方法は、テキスト(書かれたもの)をどう扱うかのスキルとその成果の蓄積です。ペーパーテストも、作る人のことまで考えればよくわかりますが、その一部でしかないんです。

――読書猿さんのお陰で、急に「調べものの技法」が身近なものに感じられてきました。

読書猿 僕らが手にすることができる知識の多くは、かつて誰かが悩み、取り組んだ問題解決の成れの果てです。先に似たような苦労をした人たちが残していった知的遺産が膨大にたまっている。

 僕が今までやってきたことは、そうした知的遺産が、今生きている人、これから生きていく人たちに届くように「灌漑工事」をしているようなものだと思ってるんです。

 歴代の研究者たちが作り出してきた知識の水源は、僕らが水を飲む場所からあまりにも遠いので、水源まで水を取りに行く近道の水路を引いているようなものです。あるいは、どんな場合に直接に知識の水源の水を汲みにいかなきゃいけないのか、そもそも知識をおける「水源」とは一体何なのか、根本的なところまで立ち返る方法も伝える。
 そうやって引いたさまざまな「水路」で、読者を知識の森へつないできたことで、ようやく自分が何を考え書いてきたのか、今回の『独学大全』で、その全体像を自分で把握できたような気がします。

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