エンドルフィンが「自意識」を弱める

 ケンブリッジのボートチームの例は、ユーモアとポジティブ感情の間の直接的なつながりは示せても、ユーモアと心理的安全性のつながりは間接的なものであることを示唆しているかもしれない。

 だが、オックスフォード大学とユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのチームは、後者のつながりも直接的なものである可能性があることを実証している。ロビン・ダンバー、ブライアン・パーキンソン、アラン・グレイは、笑いが他人との協力への意欲に与える影響を調べた。

 ダンバーらの実験では、4人1組のグループにコメディ動画を見せた(人は1人でいるときよりも他人と一緒にいるときのほうが笑いやすい)。

 動画を見た後、各被験者は同じグループの人向けに「自分のことを相手によく知ってもらうための」自己紹介文を書くように求められる。

 研究者はその自己紹介文を、どれだけ自分のことを飾らずに描写しているかという基準で採点した(「1月にポールダンスをしていて落っこちて鎖骨を折ってしまいました」「いまはボロアパートで(ネズミと一緒に!)暮らしています」といった、正直に自分をさらけだしている描写があると点数が高くなる)。

 その結果、コメディ動画を見て一緒に笑ったグループは、動画を見なかった対照群に比べて、自分をさらけだすような親密な表現を多く用いる傾向が高いことがわかった。

 これは生理学的にも説明できる。研究者たちは「コメディ動画を見たグループが飾らずに親しみのある方法で自分を表現したのは、笑いがエンドルフィンの分泌を促したからだと考えている。

 エンドルフィンがもたらすオピオイド効果によって、コミュニケーションはリラックスしたものになりやすい」と述べ、「エンドルフィンは、自意識を弱めると考えられる。その結果、自分のことを相手に知られすぎたり、“変わっている”とか“好ましくない”と思われたりすることへの不安が和らぎ、親密なコミュニケーションが促される」と続けている。

 つまり、人は笑うことで自分の本当の姿を他人に見せるようになり、他人の特徴的な部分も受け入れやすくなる。

 なぜ、これが職場でも重要なのか? そう、チームがリラックスして笑う機会が増えれば、議論は全員が積極的かつ平等に参加する「爆発的」なものになりやすい。

 笑いは、自分の考えが他人に無視されるのではないか、提案が冷ややかな扱い(「来年のクリスマス休暇はもっと違う形で過ごしたい」と言ったときに家族から白い目で見られるときのように)を受けるのではないかといった不安を和らげてくれる。

 また、笑いがつくる安全な空間によって、人は自由に考えを述べられるようになる。ダンバーも「笑いは自意識を解きほぐし、自分自身をさらけだすことへの抵抗も弱まる」と言う。

 当然、このように寛ぎ、常識にとらわれない発想ができるとき、最高のアイデアは生まれやすい。