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「とても愉快な人」がチームを強くする

 ジャッジ・ビジネス・スクール(ケンブリッジ大学の一部)に勤める民族誌学者のマーク・デ・ロンドは、調査を行う際、まず対象のチームと何週間、何ヵ月間も行動を共にする。

 そして、もともとそのチームにいた人間だと思われるくらいになるまで溶け込むことで、優れたチームワークを生じさせている条件が何かを正確に観察できる目を養おうとしている。

 ケンブリッジ・ボートレースの2007年の優勝チームを対象にした調査は、笑いが持つ「大きな信頼をもたらす力」を明らかにするものになった。

 ボート競技ではあらゆるものが分析の対象になる。選手のパフォーマンスはパワーやスタミナ、最大筋力、1対1テストなどの成績で測定される。だが、このスポーツには心理的な側面もある。

 デ・ロンドによれば、選手たちはレギュラーの座をつかむための心理的な駆け引きにもはまり込んでいる。

 メンバーに選ばれるためには、チームに協力する精神が欠かせない。だが、デ・ロンドはチーム内でポジションを争う選手たちは「したたかな計算に基づいた」行動もしていると指摘している。

 デ・ロンドによれば、このときのチームの場合、「6人のメンバーに選ばれたのは、個人的な能力がチーム内で6位までの選手たちではなかった」という。2007年のメンバーには、コーチのアドバイスに反して、ワイルドカードと呼ぶべき選手が選ばれた。

 この選手は能力的にはトップクラスではなかったが、とても愉快な性格をしていた。そのユーモア精神が、過酷なレースの場でチームに絆と信頼をもたらしたのだ。

 そのメンバーがチームに心理的安全性とポジティブ感情をもたらしたことがレースの結果にどう影響したのかを正確に測ることは難しくもある。それでも、2007年のレースの10日前、チームは「能力は劣るが、愉快な性格をしているからという理由で選手をメンバーに選ぶ」という常識では考えられない判断をするのに十分な妥当性を感じていた。

 定期戦で敗れた直後だったチームは、打開策を探していた。率直な議論の末、舵手にレベッカ・ダウビギンを入れることになった。コーチは反対したが、選手たちは押し切った。それから2週間も経たないうちに、ダウビギンはチームを3年ぶりの優勝に導いたのだ。

 ここで起きたことすべてに理由づけをするのは簡単ではない。ただし、この「とても愉快な」選手がチームで発していたポジティブ感情が、チームの選手たちが本音をぶつけあい、思い切った決断ができるような心理的安全性をつくり出すことに役立ったのは間違いないはずだ。結果がそのことを物語っている。