イギリスからの翻訳書『Google・YouTube・Twitterで働いた僕がまとめたワークハック大全』が本年9月に発売された。コロナ禍で働き方が見直される中で、有益なアドバイスが満載な1冊だ。著者のブルース・デイズリー氏は、Google、YouTube、Twitterなどで要職を歴任し、「メディアの中で最も才能のある人物の1人」とも称されている。本書は、ダニエル・ピンク、ジャック・ドーシーなど著名人からの絶賛もあって注目を集め、現在18ヵ国での刊行がすでに決定している世界的なベストセラー。イギリスでは、「マネジメント・ブック・オブ・ザ・イヤー 2020」の最終候補作にノミネートされるなど、内容面での評価も非常に高い。本連載では、そんな大注目の1冊のエッセンスをお伝えしていく。

“9000人分の業務日誌”の分析で見つかった「仕事のやりがい」Photo: Adobe Stock

「仕事での充実感」は何から生まれるか?

 集中を妨げられてばかりいると、人は身を入れて仕事ができないという感覚を強く覚えるようになる。

 これは自己肯定感に悪影響を与える。この分野の第一人者である心理学者のテレサ・アマビールによれば、人が仕事に満足感を覚えるのは、「進捗を実感しているとき」だという。

 つまり、大量のメールの返信に追われるのではなく、1つの重要なタスクに集中しているとき、人は仕事への満足感を高める。ハンガリー系アメリカ人の心理学者ミハイ・チクセントミハイはこの状態を「フロー」と呼び、こう説明している。

「活動そのものに完全に没頭し、自我は消え去り、時間は瞬く間にすぎ去る。あらゆる行動や動作、思考は、ジャズを演奏するように、その直前のものから必然的に導かれる。その行為に全身全霊をかけて集中し、持てる能力を最大限に活用している」

 アマビールによれば、フローは短時間の集中によってもたらされることが多く、長時間持続させる必要もない。

 アマビールは9000人以上の被験者の業務日誌を分析し、1日の仕事に充実感を覚えるかどうかは、達成を目指している重要な業務で有意義な進捗があったかどうかが大きく影響していることを明らかにした。

 また、「気になっていたアイデアをようやくまとめた」といった、心に余裕を持てた(特に、1人で静かに思考できた)日に充実感は高まっていた。

 ある被験者の業務日誌にはこう記されていた。

「今日は中断することなくプロジェクトに集中できた。雑談で中断されてばかりでまともに仕事ができなかったので、静かに集中できる場所で作業をした」

 誰にも邪魔されず、静かに作業をすることはフローにつながる。フローは進捗をもたらす。そして、進捗は満足につながる。

 これは、“創造性は集団で生み出すものであり、チームで成し遂げるものだ”という最近よく耳にする言葉とは逆に思えるかもしれない。もちろん、オープンスペースのオフィスでは、その狙い通り、グループディスカッションによって生産的な仕事が促されることもある。

 それでも研究結果は、集中して有意義な仕事ができるのは、1人のときである場合が多いことを示している。「職場ではまともに仕事ができない」「仕事を集中して片づけられるので、朝、誰も出社していない時間帯にオフィスに入る」という人は、すでにこのことを体感的に理解しているはずだ。