「開成」の英断、運動会中止と入試の追試を決めた理由2020年の運動会は中止となったが、1年かけて準備してきた活動の記録を公式パンフレットとして残すことに。高3生がそれぞれ見開きで登場するなど、卒業アルバムの趣もある

前回に引き続き、野水勉校長と森上展安・森上教育研究所代表の対談をお届けする。開成とはどのような学校かと問われたとき、「先輩の背中を見て育つ」と答える、日本の中等教育における最も古い私学での先輩後輩のつながりの強さを伝統的に支えてきた最大の行事が運動会である。新型コロナ禍により、2020年は開催中止を余儀なくされてしまった。(ダイヤモンド社教育情報、撮影/平野晋子)

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野水勉 開成中学校・高等学校校長

野水勉(のみず・つとむ) 開成中学校・高等学校校長

1954年福岡県生まれ。開成中学校・高等学校、東京大学工学部、同工学系研究科工業化学専攻修士課程を修了。79年動力炉・核燃料開発事業団研究員、84年名古屋大学工学部の助手となり、89年金属工学専攻で工学博士号を取得。90~91年にハーバード大学医学部客員研究員。92年名古屋大学工学研究科材料機能工学専攻の講師、96年に同大学留学生センター・短期留学部門教授に就任。同大学国際学術コンソーシアム推進室長、総長補佐(国際交流・留学生交流担当)、国際交流推進本部・国際企画室長、国際教育交流センター・教育交流部門・部門長から副センター長を歴任。2020年3月名古屋大学を定年退職し、同年4月より現職。

運動会中止は痛恨の出来事

森上展安・森上教育研究所代表 [聞き手]森上展安・森上教育研究所代表

 野水勉校長は就任から半年間、メディアへの露出を控えていた。着任早々、新型コロナウイルス禍への対応に追われたからでもある。その間、開成生にとっては心の支えのようなイベントである運動会が中止となってしまう。

――2020年は5月の運動会ができなかったことが痛恨の出来事でしたね。運動会はこちらでは一大行事ですから。

野水 生徒たち、特に高3生が1年間準備します。卒業後に会って話をするときにも運動会の有無は重要で、それができないことはすごくつらいと思う。一方で、体をぶつけ合う激しい団体競技を行いますので、1カ月間はしっかり練習していかないといけない。

 ところが、新型コロナで通学もできず、練習時間も確保できない状況でした。4月時点で例年5月の開催を6月に延期していたのですが、4月の下旬になって、とても5月中に緊急事態宣言が解除されそうもない見込みとなり、6月の開催も難しい。7月開催にするか、それとも2学期に行うかとなると、今度は受験を控えた高3の生徒たちの心が揺れ動く。

 中止を決定するにしても、高3生たちの気持ちをしっかり聞いた上でないと難しいだろうということで、Zoomを利用して話し合いを持ちました。ところが、集約しようとしても両方の意見が出てしまう。 2学期あるいは3学期でも運動会をやりたいという生徒も、2学期にやるなら自分はもう参加しないという生徒もいて、そうなると強行することも難しい。

 最終的に、高3担当の先生方から「中止にせざるを得ない」という意見が出てきましたので、その意見を教員全体で確認して「中止やむなし」ということで中止の決定につながった次第です。

――コロナのあの状況下ではできませんからね。

野水 しかし、あまりにもかわいそうなので、せっかく準備してくれたものはちゃんと記録で残しておこうと。毎年8色の組に分かれて戦いますので、中止になったけれども公式パンフレットを各組で作って、それを下級生にも配ってもらいました。

――運動で活躍できない子もこれで活躍できるということですね。

野水 その通りです。運動会当日、アーチという巨大な絵が置かれるのですが、デザインはすでにできていたのでそれを小さいパネルにして、現在、食堂に張ってあります。そういう形で記録は残してあげようという対応をしています。あと、各組が下級生を呼んで交流会をやるなどしているようです。