日・中・韓・豪・新(ニュージーランド)の5カ国と、アセアン10カ国の15カ国によって構成される「東アジア地域包括的経済連携(RCEP)」が、11月15日に署名された。2019年時点の数値規模におけるRCEPは、GDPが25.8兆ドル、貿易額が5.5兆ドル、人口が22.7億人に上り、世界の約3割を占める世界最大の自由貿易圏となる。参加国は段階的な関税撤廃などさまざまな恩恵を受けるが、中でも中国が“インドなきRCEP”を喜んでいる。離脱したインドに勝算はあるのか。(ジャーナリスト 姫田小夏)
形勢逆転を狙う中国
RCEPは、中国が2005年に提唱した「東アジア自由貿易圏」と、日本が2006年に提唱した「東アジア包括的経済連携」に端を発する。2011年8月、ASEAN諸国に対して日中が共同してRCEPの設立を呼びかけ、翌2012年11月に交渉が始まった。署名にこぎつけるまでに実に8年の歳月を要したが、今回話がまとまったのは、コロナ禍で疲弊した経済をいち早く回復させたい日・韓・豪・新と、中国とのサプライチェーンやバリューチェーンの安定化を期待するASEAN諸国の思惑が重なったためとみられている。
また、過去数年を振り返れば、世界で貿易保護主義や反グローバリゼーションが進行する中で、中国は米国主導で強化された中国包囲網の中でもがき苦しんでいた。その中国にとってRCEPは、中国が売り込みを狙う航空宇宙や防衛技術、ローエンド製品などの市場拡大もさることながら、米国を封じ込めてアジアから排除する形勢逆転の好機となる。
中国の専門家の中には、東アジアと東南アジアを中心に形成されるRCEPを、「西側が世界貿易を支配していた時代の終焉」と捉える声もあるくらいだ。
RCEP署名の5日後の11月20日、習近平国家主席は「環太平洋パートナーシップ協定(TPP)の参加も積極的に検討する」と表明した。中国にとってTPPは、“中国外し”として、また国家の主権を脅かすものとして最大の脅威と受け止められてきただけに、この表明は「虎穴に入らずんば虎子を得ず」という心境をうかがわせる。
さらに、中国の喜びはもうひとつあった。それは「インドの離脱」だ。インドはちょうど1年前の2019年11月、「未解決のまま残されている重要な課題」を主張してRCEP交渉からの離脱を表明し、今回ついに参加を見送った。
中国の国際問題の専門家である劉宗義氏が自身のブログで「インドがRCEPに参加しないのは、RCEPの発展にとって喜ばしいことだ」とつづっていたが、インドの存在が消えたことは、中国にとってまさしくもっけの幸いとなった。米国と協力して中国を封じ込めようとするインドは、中国にとって目の上のコブだったためだ。
このRCEPにおいて中心的な存在となるのは中国である。交渉の主導権の大部分は中国側に握られていたともいわれるが、もとより、沿線国でありながら「一帯一路」に背を向けたように、インドには「中国中心の枠組みの軍門には下らない」という強いプライドがうかがえる。