「買い手市場」への転換など4つの変化が見られた
「意外に堅調」とはいえ、20年度(21年卒)の就活市場を振り返ると、見逃せない変化がいくつか指摘できる。
第1の変化は、「売り手市場」から「買い手市場」への転換だ。
緊急事態宣言による外出自粛要請やインバウンドのストップによって、航空・観光・旅行業界では売り上げそのものが激減。新卒採用の選考中断や選考中止を発表する企業が続出した。
先ほど、「バブル崩壊後やリーマンショック後ほどの低い内定率に落ち込んでいるわけではない」と述べたが、19年度(20年卒)と比べて“風向き”が変わったのは明らかだ。昨年までは景気が堅調で人手不足感が強く、求人倍率は比較的高い水準が続いていた。多くの企業は採用数を増やし、また、採用活動を前倒しするなど、全体として“前のめり”だった。
これに対し、20年度(21年卒)は、ダイヤモンド・ヒューマンリソース社(以下、DHR)が行った、企業を対象とした採用アンケート調査(図表1)では、採用予定人数を当初の予定から「減らした」企業は、大手・中堅企業(従業員501名以上)で31.8%、中小企業(従業員500名以下)で24.8%と、割合を増やした。5~6割の企業は「昨年並み」としており、減少一色というわけではないが、注目されるのは、いずれも、10年ぶりに「減少」が「増加」を上回ったことだ。
背景にあるのは、もちろん、新型コロナだ。「コロナの影響で採用人数を変更した」という企業は、大手・中堅企業で26.1%、中小企業で14.6%となり、大手・中堅企業のほうが多い。これは、従来、人手不足とはいえ、大手・中堅企業はそれなりに新卒の採用ができていたので様子見モードになったのに対し、中小企業では人手不足がまだ解消されておらず、その多くが予定どおりに採用を進めたためだろう。
「買い手市場」への転換としては、数年前まで大量採用を続けていた業種(金融や電機など)で採用数を絞る企業が増える一方、採用数をそれほど減らしていない業種(ドラッグストアなどの小売業や人材派遣業)が上位に浮上している。
また、昨年まで新卒採用に苦労していた流通業や建設業では求人倍率が低下(学生の志望が増加)している。
学生はこれまでの「売り手市場」において、いくつかの内定が出ても第一希望を目指して就活を継続するケースが多かった。ところが、20年度(21年卒)は、内定が出たら早めに就活を終了する傾向が見られたようだ。
このように、20年度(21年卒)は、量(採用人数)の面より、質の面で「買い手市場」への転換が進んだのである。
拡大画像表示