感謝する気持ちを持った子は
心がブレにくい
佐々木氏の監督としての指導は、規則や命令で選手を型にはめるのではなく、自分らしさを表現させること、ミスを恐れずにチャレンジさせることで一貫していた。
「サッカーは足で行うスポーツですから、ミスが出るのは仕方ない。ミスを連発するとナーバスになってしまいますが、ミスを恐れていたらなにも始まらない。私は、成功の反対は失敗ではなく、アクションしないことだと考えています。本当のリスクとは、やらないことなのです。ですから、絶対に勝たなければいけない試合ほど、積極的な失敗をすべきなのです」
日本代表には、優れた才能を持つ選手たちが集まるが、誰もがその才能を開花させるわけではない。上手な技術を持っていても、なかなかそれを発揮できない選手もいる。同じレベルの選手でも、試合に出られる選手と出られない選手がいる。その違いは何なのか。
「上手さはあるけれども、心がブレてしまう選手がいます。代表に召集されて、練習で緊張して上手くいかなかったり、少し怪我でもすると心がめげてしまう。相当きつい練習をしますから、やはりタフでないとやっていけない部分がある。見ていると、心がブレない選手は、総じて感謝する心を持っている子たちが多かったですね」
ここまで来た自分を支えてくれた人たちがいる。その人たちへの感謝の思いがあるから、厳しい練習でも辛抱できるのだ。一方で、周囲からの応援をプレッシャーに感じてしまう選手もいる。そのため、せっかく代表に選ばれても、辞退してしまう選手がいたという。
「その点で、男性と比べて女性は真面目なのだなと思います。けれども、女性たちにはもう一歩、自ら踏み込んでいく勇気を持ってほしいと思っています」
佐々木氏は今、日本女子サッカーの新しいリーグ「WEリーグ」の立ち上げに尽力している。同リーグは現在の“なでしこリーグ”の発展型で、その設立準備室の室長を務める。
「WEリーグでは、積極的に女性活躍の場を与えるために、運営法人の職員の50%を女性とし、取締役にも女性を選出したいと考えています。また女性の指導者を育てるため、“A-Pro”という新しい指導者資格もつくって門戸を広げています。コロナ禍で状況は厳しいのですが、21年9月のスタートをめざして準備を進めています。今の私にとって、WEリーグの実現こそが、まさに失敗を恐れずチャレンジすることにほかなりません。楽しんでやっています」
なでしこジャパンで偉業を成し遂げた監督は、今も挑戦を続けているのだ。