リモートワークが普及すると、「勝者総取り」の労働市場になる
――コロナ禍は世の中のあり方を大きく変えました。働き方で変わったのはどんな点でしょうか?
山口:一番大きな変化はこれから起きるでしょう。リモートワークが普及し、これまで物理的だった仕事の空間が仮想空間に移ると、「勝者総取り」の労働市場になります。
これは、距離の制約が消えると、コロナ前は「県大会」だった労働市場が、コロナを経て「全国大会」に変わるということです。いままで県のトップ10にいれば仕事がもらえたのが、今後は全国のトップ10に入る必要があるほどに競争が激化します。そのトップ10の人々が仕事を勝ち取っていき、さらに究極的には「全国大会」からグローバルな「世界大会」に変貌します。
この前、マイクロソフトが開発しているオンライン会議システムでは、人工知能が自動で同時通訳を行う仕組みが実用段階に来ていると聞きました。今後は、日本の会社がデザインを依頼すれば、バングラデシュのデザイナーが時給200円で良質な仕事をしてくれるかもしれない。そういった環境では、「あなただから仕事をお願いしたい」と思ってもらえるかどうかが大切です。
コロナ禍で加速したナレッジのシェア
――SMBCでは、コロナの影響で変化した働き方はありますか?
三井住友銀行人事部採用グループ部長代理
高瀬雄大(以下、高瀬):コロナ禍で加速したリモートワークを通じて、行内でのナレッジのシェアが進んでいる感覚がありますね。お客さまの課題やニーズが複雑化している中で、我々銀行はお客さまと常に接点のある営業店だけでなく、本店各部と連携しながらディスカッションや提案をしています。オンラインで全国各地がつながり、物理的な距離の制約がなくなりました。専門部署や行員一人ひとりが属人的に持っていた情報やノウハウが有機的につながっていくことで、我々の最大の強みである情報をよりタイムリーにお客さまに届けることができるようになったと考えています。
矢野:同じ文脈でいうと、今年10月に立ち上げた社内SNSを通じて情報をシェアする人が増えています。いままで情報発信できる場がなかった従業員がSNSに有用な情報を書き込んで、他の従業員がその情報をお客さまにシェアする動きが広がっています。
人生の豊かさは「逃げる」ことの巧拙に左右される
高瀬:「人生の豊かさは『逃げる』ことの巧拙に左右される」というメッセージも、『ニュータイプの時代』を読んでいて心に響きました。逃げることはネガティブだというイメージを持ちがちですが、自分がどんな人間かを理解して輝ける場所に行くために、無理に戦わず「逃げる」ことは重要だと思います。
山口:生物は生命の脅威に直面したとき、2つの反応を示します。1つは「戦う」、もう1つは「逃げる」ですが、進化の過程における生物の基本原則は「逃げる」です。危ないと思ったらすぐ逃げることが生存確率を高めてきたわけです。
VUCAの時代には何が正しいのか分からないですし、いままでのやり方が突然通用しなくなる可能性もあるので、見切りの速さとセンスがこれまで以上に求められます。また、同時にすぐに撤退することも必要になります。すぐ撤退して立て直して、また別なところから攻める「トライアンドエラー」の回数を増やしていくことが大事ですね。