インターネットの「知の巨人」、読書猿さん。その圧倒的な知識、教養、ユニークな語り口はネットで評判となり、多くのファンを獲得。新刊の『独学大全──絶対に「学ぶこと」をあきらめたくない人のための55の技法』には東京大学教授の柳川範之氏「著者の知識が圧倒的」独立研究者の山口周氏「この本、とても面白いです」と推薦文を寄せるなど、早くも話題になっています。
この連載では、本書の内容を元にしながら「勉強が続かない」「やる気が出ない」「目標の立て方がわからない」「受験に受かりたい」「英語を学び直したい」……などなど、「具体的な悩み」に著者が回答します。今日から役立ち、一生使える方法を紹介していきます。(イラスト:塩川いづみ)
※質問は、著者の「マシュマロ」宛てにいただいたものを元に、加筆・修正しています。読書猿さんのマシュマロはこちら

9割の人が知らない「面接で選ばれる人」と「落ちる人」を分ける決定的な差Photo: Adobe Stock

[質問]
就職活動で「やりたいこと」をでっち上げるのに苦労しています。

 私はそもそもやりたいことなど殆どないまま生きてきてしまいました。そのためやりたいことが全く思いつきません。またそれ以上に社会に出たりその企業へ入ったりしたことがないのに、その会社でやりたいことなんて浮かぶはずがないと思っています。

 しかし求められる以上そうも言っていられない為、なんとか作ろうとしているのですがどうも浮かびません。こんな場合どのようにすればよいのでしょうか。お教えいただけると幸いです。

自分探しに逃げず、就活が「どういうゲームか」を知ってください

[読書猿の解答]
 でっち上げればいいことまで分かっているのに、ホントの「やりたいこと」がないから思いつかない、という残念な思考に戻ってしまうのは、就活がどういうゲームなのか分かっていないせいだと思います。

 立場を変えて、あなたがとある企業の採用担当だったとしましょう。採用担当にとって、応募者の「ほんとにやりたいこと」なんて、実のところ知ったことではありません。知りたいのは、その応募者を採用したとして役に立つのか(そして害を与えないか)です。

 この当然の前提を忘れると、就活の「自己分析」が単なる〈自分探し〉に堕してしまいます。就職という「つらい現実」から目を背けるために、ひたすら「自分」に目を注ぎ続ける訳ですが、この「自己分析」という名の自分探しは、一応は「就職準備」という自分への言い訳にもなるので質が悪いです。

 就活というゲームにおいては、応募者が語る〈やりたいこと〉も〈学生時代のエピソード〉も、みなそれを通じて、応募先の企業にとって応募者が役に立つ(そして害を与えない)かどうかを示し証拠立てるための素材でしかありません。つまり相手がある訳で、自分だけ掘り下げても仕方がありません。

採用担当者はどのように応募者の「うそ」を見抜いているか?

 再び、採用担当の立場に戻りましょう。応募者である以上、誰もが〈私は役に立ちます〉と主張するでしょう。この時どうすれば応募者の〈口先だけの主張=うそ〉を見分け、役に立つ者を見分けることができるでしょうか?

 情報の非対称性という考え方を使うと、応募者が役に立つかどうかは、採用担当よりも応募者が知っており(情報をもっており)、応募者がその情報を自発的に開示するように採用プロセスをデザインすればいいことになります。

 具体的には、認知的にコストがかかる事前準備をした方がより有利となるようデザインすることです。自分が役に立つと知っている応募者は、役に立たない応募者と同等に扱われないために、認知コストをかけてでもそうした事前準備をするインセンティブがあります。

 こうして認知コストをかけない応募者はどの企業を受けるにも使い回せる意味でコスパの高い汎用的な「コミュニケーション能力」などをアピールし、認知コストをかけることできる応募者はその企業にしか使えない「企業研究」やそれに基づく企業に合わせた個別性の高いアピールを行い差別化を目指します

 誰もが〈私は役に立ちます〉というなら〈私は御社に役に立ちます。その理由は~〉と根拠立てて主張/立証することで差別化をはかります。ここまでは誰でも分かりますが、的確な分析を企業ごとに行うのは認知コストが高く誰でもできることではない(差がつくことな)のでフィルターとして使える訳です。

 採用担当としては、応募者誰もが語る美辞麗句や抽象語のアピールは聞き流せばよく、個別性の高いアピールのみ拾って、トンチンカンなものかそこそこまともなことを言っているかを判断すればいい訳です。

「複層的コミュニケーション」の存在を知ろう

 こうした実際に取り交わされる情報と、その取り交わしから判明する本当に入手したい情報は違うレベルにある、複層的なコミュニケーションは、同世代集団で生きている間は意識しない人が多いです(もちろん使いこなしている人もたくさんいますが)。

 こうしたことを抜きに一般的なコミュニケーション能力なるものがあると考えてしまうと、就活だけでなく社会生活でいろんな壁に当たるかもしれません。