異論や懸念がない証拠なので、返答がないことに神経質になる必要がないという意見の人もいる。しかし、異論や懸念がないことが本当に確認できているだろうか。確認できていないとすれば、話の内容に賛同するかどうか意見を求めて、具体的な返答を得ることが必要だ。「特にありません」は、見せかけの賛同に過ぎず、納得していないケースが多い。

 ただ、メンバーが返答してこないからといって、「返答しろ」「何か言え」と指示・命令しても、自発的な発言が増えたためしはない。1対多数の会議で次から次へと指名して意見を求めても、その場では答えるが、おざなりな答えになりがちだ。

 とはいえ、どうせ返答がないからといって、リーダーが一方的に話すしかないと諦めてしまったらおしまいだ。「どうせ今日も、リーダーが一方的に話すだけだろう」「黙って時間が過ぎるのを待つに限る」と、沈黙に輪がかかってしまう。

 このように申し上げると、「未曽有の非常事態の中、リモートワークを進めなければならないので、返答がないなどのコミュニケーションの問題は、いったん棚上げしておくしかないのではないか」と言う人がいる。

 私は全くそう思わない。むしろ棚上げしてしまっては、いけないと考える。無反応症候群がはびこれば、メンバー間のエンゲージメントは格段に低下し、組織のパフォーマンスは著しく落ちる。そうなる前に手を打たなければならない。

返答を促す「5つの手法」とは

 では、無反応症候群から脱却するためにはどうすればいいのか。

 有効な方法が5つある。第1の手法は、リーダーが日頃から質問を多用することだ。業績を詰める前に、「取り組んでみてどうだったか」を質問する。褒める前には「うまくいったことは何か」を質問する。叱る前にも「うまくいかなかったこと」を質問する。こうしろああしろと指示する前に「どう改善したいと思っているか」を質問する。リーダーとしてサポートするからがんばれと激励する前に、「サポートを得たいことがあるか」を質問する…。これらのことを実施してみるとよい。

 実施してみると、これまで自分がいかに相手に質問することなく、指示・命令ばかりしていたか、ということを自覚する人が多い。さまざまな企業で役員や管理職の方々とリーダーシップ演習プログラムを実施しているが、トップダウンで指示・命令ができる人は多いが、ボトムアップの巻き込み型の質問によるリーダーシップを実践できる人は少ないのだ。

 日頃からこれらの質問をしていると、返答という行動が、頭ではなく、動作と発言で身に付く。沈黙する時間が短くなり、沈黙するメンバーが少なくなる。しかし、先ほど挙げたような質問をしても、返答がないこともあるだろう。その場合に、指示・命令や一方的に話す状態に戻してしまってはいけない。