「そもそもハイブリッド車は普通のガソリン車とは違うブレーキ感覚がある」。じつは、これは自動車通なら誰しも指摘する点である。

 トヨタ自動車のプリウスのブレーキは、モーターを発電機として用い、その発電抵抗を利用する「回生ブレーキ」と、ガソリン車と同様の「油圧ブレーキ」がある。両ブレーキの配分を運転状況や電池残量に合わせ電子制御により最適化することで、燃費効率を最大限に高める仕組みだ。

 今回のリコールは、横滑り防止のアンチロックブレーキシステムが作動した場合、油圧ブレーキのみに切り替わり、制動の遅れが生じるというもの。ユーザーは一瞬ブレーキが抜けるように感じ、予測よりも制動距離が延びることもあるため、「おかしい。不安だ」という声が上がった。

 もっとも、プリウスの特異なブレーキ感覚は初代モデルから指摘されており、トヨタはより自然な感覚にすべく改良を重ねてきた経緯がある。だからこそ当初、「不具合ではなくユーザーのフィーリングの問題」と説明していたのだ。

 しかし、3代目の新型プリウスは広く大衆への本格普及を目指したもの。技術的には発展途上であるにもかかわらず、ユーザーは「完成されたハイブリッド車」としての姿を求めた。結局、トヨタの認識とユーザーが期待するパフォーマンスのズレが、今回のリコール騒動の背景にある。

 もちろん、情報公開の遅れなどトヨタの失態がコトを大きくした面もあるが、電動化というクルマの基幹技術が切り替わる局面ゆえの問題でもあるのだ。

 今回のプリウスに限らずハイブリッド車や電気自動車など次世代自動車では、ガソリン車とは異なるより複雑な電子制御を行うため、ブレーキ以外にも既存のユーザーが違和感を持つ部分は増えるだろう。ユーザーもこうした実態を正しく知る必要があるが、メーカーや販売店には、商品特性や操作方法を詳細に伝える密なコミュニケーションがこれまで以上に必要となる。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 柳澤里佳)

週刊ダイヤモンド