業界トップの職人が語る
自分の看板で勝負する意味

 しかし、業界全体の景況は芳しくないという。杉本社長は「近年は少子化によって金魚すくいで遊ぶ子どもが減少したり、祭りの露店の数も少なくなってきた。さらに、祭りも今年はコロナによって軒並み中止。金魚の養殖業者もだんだん減ってきているため、今後はさらに廃業するメーカーが増えるかもしれない」と危機感を募らせる。

「若い頃の私はとにかく売り上げを伸ばしたいという気持ちだけでしたが、今はこの業界のトップシェアを持つ者として、1日でも長くこの仕事を続けなければならないと責任を感じています。もし今うちがやめてしまったら、日本中からポイが激減してしまうだろうし、金魚すくい関連の仕事で生活している人も食いっぱぐれてしまう。最近はお店や事業者さんが心配して『おたくは大丈夫か、もし経営が厳しければポイを注文するよ』と電話をくれます。彼らも店にたくさんの在庫を抱えていて大変なのに、気にかけてくれるのはうれしいですが、それくらいポイの存続に危機感を抱いているということでしょう。ただでさえ、ポイ作りはニッチな業界なので若者は少ないですからね」

 職人の技術は一度途絶えてしまうとリカバーすることが難しい。かくいう同社にも特定の後継者はいないという。

「もちろんポイ作りの文化は継承されていってほしいですが、今のところ誰かに会社を継いでもらう予定はありません。いろんな人からもったいないと言っていただきますが、私はそれでいいと思っています。仮に後継ぎがいたとしても、自分自身の責任以外にうちの看板の責任まで背負ってやっていくのは正直しんどいでしょう。もしポイ作りの商売を始めるのなら、最初からしがらみなく、自分の看板だけでやりたいようにやったほうがいい。金魚すくいは古典文化なんて立派なものじゃないが、今後も完全になくなることはない。だからきっと、誰かが受け継いでくれると信じています」

 最後に杉本社長に金魚すくいの腕前を聞いてみると、「あ~、もう全然ダメ」と豪快に笑った。金魚すくいという日本文化は、令和の時代になっても、こうした職人たちに支えられ続いていくことだろう。