◇人を育てる

「愛しい」と感じる身近な対象を全力で育てることも、自分自身の能力の向上、ひいては、「運」をよくする秘訣の1つである。子どもや孫といった存在だけでなく、後輩や部下などでもよい。

 愛情をもって子どもを育てた経験のある母親ラットの方が記憶力と学習能力が高いことは、とある実験によってわかっている。しかもこれは、実の子どもである必要はない。赤ちゃんラットと同じケージに一定期間いた未婚のラットも、記憶力と学習能力が向上したのだ。これはオキシトシンという「愛情ホルモン」の働きだと考えられている。

 オキシトシンは陣痛の促進や母乳の分泌にかかわるため女性の方が分泌されやすいホルモンであるが、男性でも分泌される。マーモセット(キヌザル)を使った実験では、単独でケージにいたオスのマーモセットより、子どもと同じケージにいたオスのマーモセットの方が、オキシトシンの分泌量が多い結果となった。

 こういったことから、自分の子どもに限らず愛情をもって誰かを育てると、オキシトシンが分泌されて記憶力と学習能力が向上する、ということがわかる。「人を育てると自分も成長する」ということはよく言われるが、これは実際にそのとおりなのだ。

◇明確な目的を持つ

 運がいい人になるには、具体的な目的をもつことも大切である。

 しばらく前にセレンディピティーという言葉が注目された。『広辞苑』には、セレンディピティーとは「思わぬものを偶然に発見する能力。幸運を招きよせる力」とある。つまり「偶然の幸運をキャッチする能力」のことだ。

 科学上の大発見には、実はセレンディピティーによるものが多い。たとえば、2000年にノーベル化学賞を受賞した白川英樹博士の「導電性ポリマーの発見と開発」は、実験の失敗が大発見のきっかけとなった。このようにセレンディピティーを発揮した人たちに共通しているのは、明確な目的を持っていることである。白川博士は、中学生のころから「新しいプラスチックを作りたい」という思いを抱いていた。