トヨタ、セブン-イレブン、しまむら、ワークマンは
脊髄が強い!?

内田:30年ぐらい前、私は企業には「マクロループ」と「ミクロループ」があるという話をしていました。

マクロループとは、人間で言えば大脳で考えるような話、ミクロループとは脊髄で考えるような話です。

人間はどこへ行きたい、何をやりたいなどと頭で考え行動するイメージがありますが、実は条件反射的な行動も多い。

たとえば、熱い鍋を誤って触った瞬間に、「熱いものに触った。このまま持っているとまずい。手を離すべきだ」なんて考えていたら大やけどしてしまう。熱い鍋に触った瞬間にパッと手を離すように人間はできています。

土屋:そうですね。

内田:組織においても、企業の事業部で経営戦略を考えるといった大脳的なところと、現場の一人ひとりが自分の判断でやらなくてはならない脊髄的なところがあって、強い企業は後者のミクロループが強いと私は思っています。

土屋:なるほど。

内田:トヨタ、セブン-イレブン、しまむらなどはミクロループが強い会社です。そういう意味で、土屋さんは、「マクロループはできているが、ミクロループは弱い」と感じ、そこを鍛えるために、上からガミガミ言うのではなく、データで考えることを徹底させた。

土屋:まさにそうです。もともと変化の激しい時代にあって新型コロナ禍も加わった現在の状況は、毎日加盟店を回っているSVが一番よく知っています。

ただし、情報を集めるセンサーとしての役割を果たすのではなく、自分で仮説、実行、検証を行います。そしてそれを全社で共有します。これは全員参加の経営であって、経営者個人の能力に依存しない経営です。これなら凡人経営者でも、現場の判断つきの情報を見ながら、一段深く判断できます。

内田:考えるだけではなく、考えて行動する組織ですね。現場を細胞に喩えると、1つひとつの細胞が考えて行動するような仕掛けを導入して、全体としてベストな判断ができるようになる。これを継続するには「楽しくやり続ける」がキーワードだと思います。ワークマンには楽しくやり続ける仕掛けはありますか。

土屋:自分が考えて実験してデータを集め、その成果が全社に広がるという達成感が大事です。そこをほめたり、社長表彰したり、昇進・昇格に結びつけるようにしています。こういう仕組みが非常に重要だと思っています。

内田和成

早稲田大学ビジネススクール教授
東京大学工学部卒、慶應義塾大学経営学修士(MBA)。日本航空を経て、1985年ボストンコンサルティンググループ(BCG)入社。2000年6月から04年12月まで日本代表。09年12月までシニア・アドバイザーを務める。BCG時代はハイテク・情報通信業界、自動車業界幅広い業界で、全社戦略、マーケティング戦略など多岐にわたる分野のコンサルティングを行う。06年4月、早稲田大学院商学研究科教授(現職)。07年4月より早稲田大学ビジネススクール教授。『論点思考』(東洋経済新報社)、『異業種競争戦略』(日本経済新聞出版社)、『スパークする思考』(角川書店)、『仮説思考』(東洋経済新報社)、『リーダーの戦い方』(日経BP社)など著書多数。
Facebook:https://www.facebook.com/kazuchidaofficial
土屋哲雄(つちや・てつお)
株式会社ワークマン専務取締役
1952年生まれ。東京大学経済学部卒。三井物産入社後、海外留学を経て、三井物産デジタル社長に就任。企業内ベンチャーとして電子機器製品を開発し大ヒット。本社経営企画室次長、エレクトロニクス製品開発部長、上海広電三井物貿有限公司総経理、三井情報取締役など30年以上の商社勤務を経て2012年、ワークマンに入社。プロ顧客をターゲットとする作業服専門店に「エクセル経営」を持ち込んで社内改革。一般客向けに企画したアウトドアウェア新業態店「ワークマンプラス(WORKMAN Plus)」が大ヒットし、「マーケター・オブ・ザ・イヤー2019」大賞、会社として「2019年度ポーター賞」を受賞。2012年、ワークマン常務取締役。2019年6月、専務取締役経営企画部・開発本部・情報システム部・ロジスティクス部担当(現任)に就任。「ダイヤモンド経営塾」第八期講師。これまで明かされてこなかった「しない経営」と「エクセル経営」の両輪によりブルーオーシャン市場を頑張らずに切り拓く秘密を本書で初めて公開。本書が初の著書。