組織学習がワークマン成長の
最後のワンピースだった
内田:私はこれまで「企業は立ち止まってはいけない」「常に学習し続けなくてはいけない」と言い続けてきました。昔から「組織学習」と言っています。
一時期は、組織学習を企業にアドバイスしたり、コンサルしたことがありました。そのポイントは、
1.社員一人ひとりが、仮説、実行、検証というプロセスを通して、学ぶ
2.社員一人ひとりの学びを組織で共有する
の2点です。かつてのセブン-イレブンでは、どの商品を、どう並べたら、どれくらい売れるのかを社員一人ひとりが研究し、その結果を組織全体で学び合いました。
土屋:徹底されていますね。
内田:その点で、土屋さんの著書を拝読して、ワークマンは組織学習の、仮説、実行、検証が非常によくできていると思いました。社員がそれをやる仕組みとして「エクセル経営」があるのですね。
土屋:おっしゃるとおり、当社はオペレーションに強みがあると思います。
もともとオペレーショナルエクセレンスの会社で、創業以来40年間磨き上げてきました。価値観としては、もともと余計なことを「しない経営」があります。作業服以外やらない、それも法人向けはあえて捨て、個人向けしかやらないという具合に、「しない経営」の定義はシンプルで、全社員と共有できています。また、マニュアル化、標準化も徹底しています。
内田:土屋さんは三井物産出身ですが、ワークマンに移ってから、戦略やオペレーション面で何か違いを感じましたか。
土屋:物産にいたときは、社員が二言目には「戦略」と言うのですが、ワークマンでは二言目には「標準化」と言います。
「標準化」という言葉が、日常のコミュニケーション中で1日数回以上出てきます。標準化を徹底し、オペレーション力を高める意識が根づいている証だと思います。
内田:まさにそこが強みですね。
土屋:しかし、「学習」が不足していました。内田さんがおっしゃる「オペレーションの4つのカギ」のうち、価値観、シンプル、徹底の3つはよかったのですが、4番目の学習は弱かった。
個人向け作業服だけやると、狭いところを深掘りしていた会社です。その中で標準化をいかにやるかという限られた学習はありました。でも、社員が、仮説、実行、検証を行うことはなく、学習したことを共有する仕組みもありませんでした。部下から上司に何かを提案することもない上意下達の体育会系的な組織でした。
内田:そういう組織が新業態に向かうにあたり、「エクセル経営」という組織学習を行うようになるわけですね。
土屋:エクセル経営は、考える組織にしたいという狙いでスタートしました。私たちにとって一番重要な店舗の標準化、品揃えの最適化などを行うため、社員が現場で実験し、実験結果をデータとして集積し、活用できるようにしています。
内田:まさに個人の仮説、実行、検証のプロセスを全体で共有するという組織学習のお手本です。
土屋:データベースからエクセルに落とし、現場で活用しています。
関数、マクロ、ピボットテーブルなどを活用して分析する社員が多いですが、上級者はVBAーシックを使って分析します。
私が2012年にワークマンに入った4ヵ月目からエクセル研修をスタートし、2014年に客層拡大に向け、「エクセル経営」を実施することを中期業態変革ビジョンに入れ込みました。社長以下社員全員で「エクセル経営」をやると決めました。
内田:土屋さんが入社する前のワークマン社員は、どのくらいデータを活用していたのですか。
土屋:決算書には商品に関する数字は記載されていましたが、日々の商品フローに関する数量データがまったくありませんでした。これを見て、マズいと思い、まず数字的にものを考え、数字で議論する風土を根づかせなくてはと思いました。
内田:ある種の「見える化」をしようと考えたのですね。
土屋:同時に、数字の読み方を学びながら新業態へ行く準備を整えました。
新業態に行けば、これまでの上司の勘と経験が使えませんから、全員でデータを活用し、会社の舵取りをしていくことを考えました。勘と経験による意思決定を、データに基づく意思決定に変え、誰でも経営に参画できる仕組みをつくろうと思ったのです。