文芸春秋に入社して2018年に退社するまで40年間。『週刊文春』『文芸春秋』編集長を務め、週刊誌報道の一線に身を置いてきた筆者が語る「あの事件の舞台裏」。今も新型コロナウイルスのパンデミックは収まらず、不安な日々が続く。かつて似たように日本を激震させたO157事件では、危機に際しての報道のあり方が問われた。(元週刊文春編集長、岐阜女子大学副学長 木俣正剛)
「カイワレ大根が原因」と
今も思われているO157事件の真実
新型コロナウイルスの異常事態に比べれば、大きな犠牲者は出なかったかもしれませんが、文春記者時代の私はいくつかのパンデミック(?)に遭遇しました。
報道と実態がかけ離れてしまうという意味では、1996年(平成8年)に起こった、堺市の「O157事件」が一番印象に残ります。
給食を食べた子が次々と発症。児童7892人を含む9523人の方々が罹患し、3人の児童が尊い命を失いました。後にそれがO157という細菌からくるもので、時には腸からの深刻な出血を伴い死に至るという「殺人細菌」として恐れられていました。
しかも、児童が食べた食材を詳しく検査した結果、当時まだ一般的な野菜ではなかった「カイワレ大根」に菌が付着していたという結論が報告され、あっと言う間に市中からカイワレがなくなりました。