楽しめる仕事だけに絞って起こったある変化

「承認のシャワー」を浴びせたある編集者が岸田奈美を輝かせた

岸田:だからここ1~2年は、自分から「私、いい人なんでぇー」と言うようにしています(笑)。

 以前は、周りからギブされたら目一杯返さないといけないと思っていたんです。(ブログサイトの)note(「岸田奈美のキナリ★マガジン」)で記事が読まれるようになってからも、応援されればされるほど「じゃあ、無料セミナーやります!」と頑張りすぎて疲れていました。毎月1000円の有料マガジンを買ってもらうわけだから、何かを返さないといけない。そう考えて必死だったんです。

 でも、佐渡島さんは「みんな岸田さんから何かを返してもらいたくて1000円を払っているわけじゃない。楽しそうな岸田さんが好きで、応援したいから払っているんだよ。だから、岸田さんが楽しくないことをやる必要はない」と言ってくれたんです。もしも「何も返ってこないから応援やめる」と離れていく人がいたとしても追う必要はないって。

 そうかと納得して、楽しめる仕事だけに絞るようにしたら、ラクになりました。取材も、全部受けようとして消耗しかけていたんですけど、自分が応えたいと思える企画を選ばせてもらうように変えました。

川原:大事ですよね、取捨選択。僕も(妻で片づけコンサルタントの)近藤麻理恵のマネジャーとして、取材対応件数はかなり絞るようにしてきました。取材前に、「この記事は事前に読んでください」と資料を送って、同じ質問が重なるのを避けたり。

岸田:それをやってくださる方の存在ってすごく重要だし、自分で選ぶ場合でも、相手が愛情を持って近づいてきているかを見極める眼力が問われますよね。

 でも、一人でこなすのはかなり難しいと思う。依頼を選別するのはハードだし、ストレスもあるし、共感力が高ければ高いほど消耗して、病んでしまうんです。

 実際、ネットから出てくる書き手やアーティストって、有名になって1年くらいでメンタルをやられて、活動を休止する人が多い気がするんです。

 その点、私は早々に(佐渡島さんが代表を務める)コルクというエージェントに入れたことがよかったです。別に回し者ではないけど、マネジメント代行料も本当に良心的だし。しかも、その少ない金額を増やすために、普通はもうけ重視の案件を取ってくるはずなのに、それもしない。

 私が楽しめることを最優先してくれるんです。それに反する案件なら高いギャラの仕事でも断っちゃう。「それは岸田さんが楽しめないでしょ」って。

川原:いい人すぎるでしょ(笑)。経済合理性で動くわけではない姿勢を徹底しているんですね。

岸田:会社経営として大丈夫かってこっちが心配しちゃいますけど、本当にありがたいです。

 例えば、私のところには、企業のオウンドメディアから執筆依頼が来ることがすごく多いんです。原稿料も悪くはなくて。でも、私が嫌だったのは、書いた記事が消えてしまうリスクがあること。企業のオンウドメディアって競合が多くて、すぐに潰れるところもたくさんあるんです。しかも、記事を読むだけで離脱する人も多いから、会社の役に立っている気もしない。私の名前も覚えてもらえない。

 そこに書き続けるのがつらいなと思い始めた時に、佐渡島さんも察してくれたみたいで、ほとんどの仕事を断ってくれるようになったんです。書くとしたら、私自身のnoteで、自分の作品として残せるような条件にしてくれて。この交渉は、自分一人ではできなかったな、と思います。

 その分、私は楽しめる企画だけに没頭できる。フリーランスになって半年くらいは一人でやっていた時期もあるんですけど、その頃と比べたらパフォーマンスは10倍、20倍に増えた感覚があります。