だから、科学と政治の肝は別のところにあるのでしょう。かつてのソビエト連邦では、結果的に擬似科学だった学説を盲信した人たちが政権の中枢で農業改革を試み、政治を大混乱させた歴史もあります。

写真:瀬名秀明瀬名秀明(せな・ひであき)/作家

西村 メルケルさんの長所は、科学者としてというより、物事を整理して理論的に考えられるといったところでしょう。しかも、国民のシンパシー(共感)を得られるようなプレゼンテーションができる。分かりやすい言葉で、しかも決然と国民に語り掛けるあのプレゼン力は、理系とは思えないほど素晴らしいですよね。

瀬名 感情に訴えるところなどね。僕は、科学者とは自らの専門の下に提言をする役目であり、一方の政治家は科学出身者でなくていいのですが、どの提言を採用するか決断し、自ら責任を取って、かつ事態の進行に合わせて柔軟に対応し指揮してゆく。政治家には、そうしたセンスとリーダーシップを発揮できるような「決断の専門家」であってほしいと思います。

2009年の新型インフルエンザを
誰も総括しておらず教訓を生かせない

 残念ながら日本はこういう政治家が不在で、今回のコロナで政治家は「専門家の意見を聞いています」などと国会で答弁するけれども、実は自分に都合のいい意見だけを引っ張っていたり、Go Toトラベルが批判されたときも「これで感染が拡大したというエビデンスはない」と言い出したり。Go Toトラベルの是非については議論が必要ですが、都合のいいアリバイ作りに科学の名前が使われている、という印象を受けました。

――2度目の緊急事態宣言以降、政権の支持率が下降の一途です。なぜ日本のコロナ対策は信用されないのでしょうか。

瀬名 この1年、徐々にSARS-CoV-2(新型コロナウイルス)のことも分かってきて、エビデンスもアップデートされています。本来なら日常生活をなるべく維持できるように、感染対策で引き続き行わなければならないこと、逆に緩めてよいところといった「ほどほどな政策」について政権自ら示してほしいところですが、結局は経済対策の方ばかりに引っ張られてきたように見えるんですよね。