人や組織の変化を拒む「免疫システム」

中竹:時間厳守という制度がありながら、まったく時間を守らない組織もあれば、5分前行動を徹底する組織もあります。どのようなことが影響し合ってその違いが生まれたのかを探るときに、インテグラル理論を活用できるということですね。

加藤:制度の背後にあるものを見るときにインテグラル理論は役立ちます。人間は、意味づけをする生き物です。「時間厳守」という制度を導入したとき、時間厳守が組織にとってどのような意味があるのかを問うことで、組織文化が浮き彫りになります。

 ある個人が時間厳守を頭では分かっていてもなかなか守ることができないとしましょう。そのとき、本人が時間を守ることに対してどのような意味づけをしているのか。それを問うことで、時間を守れない行動を生みだしている背後にある何かに気づくことができます。インテグラル理論は、意味の階層を深彫りしていくときにも重要になると思います。

中竹:確かに、背後にある意味づけをひも解くのは重要ですね。

加藤:日本の企業社会でも最近知られるようになった、ハーバード大学のロバート・キーガン教授が提唱した成人発達理論ともつながります。インテグラル理論は、成人発達理論をベースに構築されています。仕組みや制度をつくって導入しようとしても、なぜか導入できない。それは、キーガン教授の言葉で言えば私たちに変化を拒む免疫システムがあるからです。

 変わりたいと頭では思っているのに、無意識が変化を拒んでしまう。これは個人にとっても組織にとっても同じです。それが何かを突き止めないと、組織は変われません。無意識なものを意識化させていくのは、キーガン教授の理論と同じなのです。

中竹:『ウィニングカルチャー 勝ちぐせのある人と組織のつくり方』では、無意識なものを知るためには、具体的な行動や言動など意識されている部分にしか手がかりはないので、他者からどのように見えているか、他者からのフィードバックなど、表面に表れているものから掘り下げていきましょうと書いています。

加藤:それは大事なポイントですね。目に見えないものに直接飛び込んでいくのは難しい。無意識と意識、無意識と表出される行動は紐づいているので、目に見えている行動から対話を重ねたり、他者のフィードバックを手がかりに無意識に降りていくのは大事なステップだと思います。

中竹:最近は無意識な部分を言語化してもらうため、意識的に「クリエイティブアボイダンス(創造的回避)」という言葉を使いながら、どうしても言い訳したり、至らないことを正当化したりする部分に焦点を当ててもらっています。

加藤:無意識のものを意識化するときに言語化して形として残しておくのは非常に大事です。ポロッと出てしまうものこそ無意識の表出で、愚痴も大事な情報源になります。

 『ウィニングカルチャー 勝ちぐせのある人と組織のつくり方』を読んで、中竹さんは組織文化を知るときに、直感的に組織文化の成熟度を測定されているのではないかと想像しました。

 チームや組織の中でミスが起こったとき、そのミスを他人に責任転嫁したり、自分が成果を上げなくても誰かが上げてくれると考えたりするなど、他者依存段階的な組織文化が蔓延している組織もあります。

 インテグラル理論の観点を用いれば、合理性段階においてはロジック一辺倒の組織運営になる傾向があり、感情を無視するような組織文化が醸成される傾向があります。中竹さんは直感的にさまざまな組織文化の成熟度を認識されているのではないでしょうか。

(対談中編は2021年2月28日公開予定です)