組織文化を知り、変え、進化させる方法を紹介した新刊『ウィニングカルチャー 勝ちぐせのある人と組織のつくり方』。本書では特典付録として、インテグラル理論や成人発達理論に詳しい知性発達学者の加藤洋平さんと中竹竜二さんとの対談を収録しています。今回から3回に分けて、本書に収録した対談のロングバージョンを掲載します。対談前編で加藤さんが解明したのは、組織文化を変えることの難しさです。人にも組織にも変化を拒む「免疫システム」があると加藤さんは明かしました(構成/新田匡央)。
一橋大学商学部経営学科卒業後、デロイト・トーマツにて国際税務コンサルティングに従事。退職後、米国ジョン・エフ・ケネディ大学にて発達心理学とインテグラル理論に関する修士号および発達測定の資格を取得。オランダのフローニンゲン大学にてタレントディベロップメントに関する修士号および実証的教育学に関する修士号を取得。著書に『なぜ部下とうまくいかないのか「自他変革」の発達心理学』『成人発達理論による能力の成長 ダイナミックスキル理論の実践的活用法』監修書に『リーダーシップに出会う瞬間 成人発達理論による自己成長のプロセス』、監訳書に『インテグラル理論 多様で複雑な世界を読み解く新次元の成長モデル』(以上、日本能率協会マネジメントセンター)がある。ウェブサイト「発達理論の学び舎」にて、インテグラル理論や成人発達理論に関する情報を共有している。
中竹竜二さん(以下、中竹):『ウィニングカルチャー 勝ちぐせのある人と組織のつくり方』の重要なポイントの一つは、組織文化を変えるときには無意識の領域にいったん踏み込んで、目に見えない組織文化を意識し、言語にして表出させ、新たに認識した組織文化を再び無意識に落とし込む必要があるという点です。
このとき、差異化された一つのものを見るのではなく、メタ(俯瞰的)に物事を見ないと組織文化は把握できません。この「メタに見る」ことに関する理論的な裏づけとしてインテグラル理論の知見をいただきたいと思いました。
また組織文化は、組織の発達段階にも影響されるのではないかというのが私の仮説です。
何を良しとするのか、何を格好いいとするのか、何を大切にするのか。こうした価値基準は、組織の中にいる人の意識の持ちようや成熟度、発達レベルによっても違います。たとえ制度がまったく同じ二つの企業があっても、その二つの企業の組織文化がまったく同じにはなりません。これらの観点について、加藤さんのご意見をお聞きしたいと思いました。
加藤洋平さん(以下、加藤):私の専門領域のインテグラル理論とは、さまざまな現象をメタに見るための理論です。組織文化は複雑で目に見えないものだからこそ、インテグラル理論というメタ理論が果たす役割があると思っています。
組織文化の変革のポイントとなる無意識のものを意識する場面でも、インテグラル理論は役に立ちます。インテグラル理論はさまざまな現象に対して多面的に見ることを可能にしてくれるからです。
中竹さんがおっしゃったように、企業の課題のレベルはさまざまで、働いている人の発達段階も異なります。人間の知性や能力の深さ、階層などを扱う成人発達理論は、その部分を解明するためにも役に立つのではないかと思います。
中竹:まずはインテグラル理論について教えてください。
加藤:インテグラル理論は、アメリカの思想家ケン・ウィルバーが提唱した理論で、さまざまな科学領域、さまざまな哲学領域の複数の理論を統合的にまとめたメタ理論です。
学問領域で言えば、心理学、社会学、哲学、宗教学など、さまざまな理論を俯瞰的・統合的に捉えて、人や組織、社会がどのように成長、発達していくかに関するエッセンスを吸い上げ、数珠つなぎにして一つの理論にまとめたものです。
インテグラル理論の中には人や組織を見るさまざまな観点があります。そのときに重要になるのが、英語で「AQAL(All Quadrants All Levels=アークアル)」(「全象限・全レベル」という意味)と呼ばれるものです。
インテグラル理論では四つの象限を通じてさまざまな現象を見ていきます。
通称「左上象限」と呼ばれるのが、「個人の内面を扱う象限」です。目に見えない心の領域、意識の領域を扱います。一方、個人の領域には外面領域があり、目に見えるもの、客観的に測定できるものが「右上象限」に該当します。
これを組織などの集合に当てはめたのが下の象限です。通称「左下象限」は、組織文化やチームの雰囲気など、目に見えない集合の内面領域を扱います。組織の目に見える領域、客観的に可視化できる領域を扱うのが「右下象限」です。
無意識のものを意識することによって変化するのは、人も組織も変わりません。これら四つの象限は相互に影響し合っていると考えられます。そのつながりを統合的に見たうえで変革の処方箋を打ち出すのが、インテグラル理論の特徴です。