かつては、報酬を得られるかどうか不確かな状況でも、物事を探し続けられる者のほうが、生存確率を高められた。その結果として、人間は不確かなものを偏愛するようになった。着信音が鳴るとスマホを手に取りたくなるのもそのためだ。たいていの場合、着信音が聞こえたときの方が、メールやチャットを読んでいるときよりもドーパミン量が増える。
このメカニズムを巧みに利用しているのが、SNSだ。彼らは行動科学や脳科学の専門家を雇い、承認欲求を満たす「いいね」がついていないかどうか、頻繁に確かめさせるような仕組みを構築している。
◇スマホはそばに置いてあるだけでも影響する
テクノロジーに精通している人ほど、テクノロジーの使用制限が必要と考えているようだ。フェイスブックの「いいね」機能を開発したジャスティン・ローゼンスタインは、自分のフェイスブックの利用時間を制限し、スナップチャットをやめ、スマホ利用を制限するアプリまでインストールした。またスティーブ・ジョブズも、自分の子供のiPadのスクリーンタイムを厳しく制限していた。さらにビル・ゲイツは、子供が14歳になるまでスマホを持たせなかったという。
仕事中に一度スマホを手に取ると、メールチェックだけでなく、新しく「いいね」がついていないかどうか、SNSを確認してしまう人は多い。さらには、シェアされた記事やセール情報に目を通そうとしてしまい、仕事から遠く離れてしまうこともある。
あらゆる危険にすぐ対応できるよう、集中を分散させる脳の機能は、祖先の時代には有効だったかもしれないが、現代では集中力を失わせる原因になっている。人間は、マルチタスクを行うと気が散ってしまい、作業能率を落とす。また、長期記憶を作るためには、ひとつのことに集中しなければならない。
スマホは、そばに置いてあるだけでも気を散らせてしまう。集中したいのであれば、サイレントモードにするくらいでは効果はなく、別室に置いておく必要があるほどだ。