部下への指示は、不親切なほど良い

 トヨタ系に限らず日本では製造業に就職すると、初めは現場研修として、現場の作業に従事します。私自身も大学院を出て豊田自動織機製作所に就職した際に、初めは自動車事業部の自動車製造工場の一作業者として溶接工程の現場に入りました。

 1ヵ月ほどたったある日、現場に責任を持つ組長になる一歩手前の「ライン外」の方から午前の休憩時間に、「カイゼンしたほうが良いと思ったこと、なにか気が付いた?」と声をかけられました。

 現状のコンベアラインの足元のローラーについて、安全面と作業性の悪さについて話し、どう直したらいいかのアイデアを話したところ、「よし、次の昼休みにやってみよう」と、早速、昼休みになるとアーク溶接棒を手にして来られました。

「ここに、板をつければ良いね。これでいいか、見ててね」と溶接作業を数分で終わらせ、「午後から、これでやってみて。悪かったら、また直そう」と言われ、昼食に向かいました。

 まだ、現場に入って1ヵ月足らずの新米の意見を取り入れて、工程内に鉄片を溶接してしまう、その行動の速さと大胆さ、そして「拙(まず)ければもとに戻せばいい」という姿勢に驚いたものでした。

 また、トヨタでは「指示は不親切なほど良い」と言います。物事をよくわかった上位のものによる不親切な指示は、個人の問題解決の力を高めるためには、大変有益なものです。こういった文化のもと、人が知恵を使う方向に上手に追い詰めていくのが、トヨタの「人づくり」のあり方です。

 入社してまだ数年の頃に、トヨタ自動車の工場の現場に行った時に、話のレベルのあまりの高さと深さに驚き「あの方、部長か工場長ですか」と先輩に尋ねたところ、「いや、工長(組み立て、塗装、溶接などの工程責任者)だ。トヨタの現場の管理者なら、皆、あのくらいのことは喋るぞ」と聞いて、その層の厚さに感服したこともあります。

《Point》
企業が大きくなればなるほど「企業は人なり」が重要。
トヨタの姿勢は、皮相的には単なるケチケチに見えるが、その実は、人が知恵を使い続ける「ものづくりのプロセス」に潜むムダ取りと、市場変化に対応できる柔軟性の追求にある。