追い詰められてやってしまった
営業マンとして「最低」のこと
しかし、入社して半年が過ぎた頃、いよいよ「限界」が見えてきました。
当初は、知人のよしみで保険に入ってくれた人たちのおかげで「成績」が上がっていましたが、そんな彼らも、僕に知人を紹介してくれることはほとんどありませんでした。その結果、新規営業をするために連絡をする「見込み客のリスト」が尽きてきたのです。
新規営業先の枯渇は、営業マンにとって「死」を意味します。
「このままいったら、終わる……」。仕事中は気が紛れましたが、一日の仕事が終わって、誰もいないオフィスで寝袋にくるまって眠ろうとすると、そんなヒリヒリするような不安にさいなまれました。人間関係が傷つき、孤立感が深まる“どん底”の状況のなか、僕はただただ焦るばかりでした。
そんな中、僕にとって決定的なことが起きました。
その週、僕は契約を2件しかお預かりすることができずに日曜日を迎えていました。「なんとか目標を達成しなければ……」と焦っていた僕は、TBS時代の後輩に連絡をしました。保険に入ってもらおうと思ったのです。
彼は、日曜日の夕方にもかかわらず、僕と喫茶店で会ってくれました。
そして、このとき僕は、「最低」のことをしてしまいました。
あろうことか、先輩と後輩の関係性を背景に、強引に契約に持ち込もうとしたのです。「契約するまで帰さない」と口にこそ出しませんでしたが、全身でプレッシャーをかけていました。思い出すと、今も、彼に申し訳なく、情けなくて、心が苦しくなります。
しかし、このときの僕は「自分のこと」しか考えていませんでした。彼がしぶしぶサインした契約書を手にして、「これでなんとか目標をクリアできた!」と胸を撫で下ろしていたのです。
その報いは、すぐに訪れました。
翌日、僕はマネジャーに呼び出され、後輩が会社にクーリングオフを申し入れてきたことを伝えられました。愕然としました。マネジャーは多くを語りませんでしたが、「ライフプランナーとして、あってはならないことだ」と静かな口調で言いました。
もちろん、それもショックでした。
しかし、それ以上にショックだったのは、謝罪をするために後輩に電話をすると、すでに「着信拒否」されていたことです。何度かけても、二度と電話には出てくれませんでした。
彼は、「自分のこと」しか考えない僕を、人間として拒絶したということです。拒絶されるだけのことをしたという自覚があっただけに、これは堪えました。打ちのめされるような思いでした。
直面する問題は、
自分の心の問題を映し出している
そんなときに、偶然、目に止まったのが野口嘉則さんの『鏡の法則』(サンマーク出版)という本でした。
駅のホームのベンチで呆然としながら、スマホでフェイスブックのタイムラインをスクロールしていたときに、知人が『鏡の法則』の感想をアップしていたのを読んで、「自分に必要な本」だと直感。すぐに電子書籍を購入して、駅のベンチで夢中で読みふけりました。
この本の主人公は小学生の息子を持つお母さんです。
息子が友達にいじめられているのではないかと心配で、その問題を解決するために心理カウンセラーと出会います。
しかし、カウンセラーとコミュニケーションを重ねるうちに、実は、問題を抱えていたのは主人公自身であったことに気付かされていきます。高校時代から疎遠になっていた父親、心のなかで軽んじていた夫との関係性にこそ、問題の根源があることがわかってくるのです。
そして、父親と夫に謝罪と感謝の気持ちを伝えることで、お母さんが置かれている状況そのものが変わっていく。その心理的なプロセスが、感動的に描写された物語を読みながら、僕は思わず涙をこぼしていました。
そして、これは僕自身の問題でもあると感じました。
この本には、「鏡の法則」とは、「私たちの人生の現実は、私たちの心の中を映し出す鏡であるという法則」のことだと記されています。つまり、そのとき僕が突きつけられていた厳しい現実――後輩に拒絶され、多くの知人との関係性が傷つき、営業マンとしても行き詰まりつつあったこと――は、僕の心の中を映し出しているということです。