今は見えていない問題を顕在化させ、
気づくようにする努力が合言葉に

トヨタでは、なぜ、工場のライン稼働率の理想を95%とするのか?稲田将人(いなだ・まさと)
株式会社RE-Engineering Partners代表/経営コンサルタント
早稲田大学大学院理工学研究科修了。神戸大学非常勤講師。豊田自動織機製作所より企業派遣で米国コロンビア大学大学院コンピューターサイエンス科にて修士号取得後、マッキンゼー・アンド・カンパニー入社。マッキンゼー退職後は、企業側の依頼にもとづき、大手企業の代表取締役、役員、事業・営業責任者として売上V字回復、収益性強化などの企業改革を行う。これまで経営改革に携わったおもな企業に、アオキインターナショナル(現AOKI HD)、ロック・ フィールド、日本コカ・コーラ、三城(現三城HD)、ワールド、卑弥呼などがある。 2008年8月にRE-Engineering Partnersを設立。成長軌道入れのための企業変革を外部スタッフ、役員として請け負う。戦略構築だけにとどまらず、企業が永続的に発展するための社内の習慣づけ、文化づくりを行い、事業の着実な成長軌道入れまでを行えるのが強み。 著書に、『戦略参謀』『経営参謀』『戦略参謀の仕事』(以上、ダイヤモンド社)、『PDCA プロフェッショナル』(東洋経済新報社)、『PDCAマネジメント』(日経文庫)がある。

 常に今の状態は不完全であるという前提に立ち、たとえば工程間で動いているかんばんの枚数を減らして工程間の在庫の数を調整することによって、ものと情報がよどみなく粛々と流れ、柔軟かつ、リーンな状態になっているのかを確認します。

 つまり、今は見えておらず、皆が気付いていない問題を顕在化させ、気づくようにする努力が、トヨタにおいて合い言葉として使われて、自動車づくりにおける様々な仕掛けの工夫として実践されているのです。

 工程間のかんばんの枚数を減らしていけば、工程間に流通する在庫の量も減り、どこかで欠品を起こします。そのぎりぎりの線で、今時点での生産数量に必要な、工程間に流通するかんばんの枚数を決めます。

 このようなやり方を人が考え、アイデアをプロセスに盛り込み、前よりも良い状態にしていく。これがトヨタが「ものづくり」において、日々行われている「カイゼン」活動なのです。

 これは取引先の工場との間でも行われます。かつてトヨタは、取引先に厳しい要求を突きつけると言われた時期がありました。

 しかし、やんちゃな小売業などでは時折、一方的な値引きを取引先に突きつけて、相手の収益構造を圧迫させてしまうケースがあるのに対して、トヨタの取引先には、トヨタからの無理な要求によって収益性が悪化し、つぶれてしまった企業の話は聞きません。

 もちろん、担当者個人によっては、その進め方にぶれがあり、取引先に迷惑をかけることがあったであろう点は否めません。

 しかしその基本は、むやみに無理な要求を突きつけるのではなく、場合によっては取引先の工場の工程改善にまで踏み込んで、「ものづくり」のムダ取りを行うというのが狙いなのです。

「信頼とは社会的コストを低減させる方法である」

 これは社会学者ニクラス・ルーマンの言葉です。

 品質やコスト、納期の面の要求は大変厳しいものですが、これをクリアするための努力に真摯に取り組む取引先とは、信頼関係を大事にした付き合いをするのもトヨタの特徴と言えます。