注射器は先端部と注射針の根元部分にデッドスペースがあり、通常の注射器では5人分、注射器の根元のデッドスペースをなくした特殊な注射器でも6人分しか取れません。なので、厚生労働省は、特殊な注射器の確保が難しいため、1瓶あたりの接種回数を当初想定していた6回から5回に減らすことを決めたのが実情です。

宇治徳洲会病院の末吉院長宇治徳洲会病院の末吉院長

 そこで、思いついたのが、インスリン用注射器でした。もともとインスリン皮下注射用の注射器は、インスリンが貴重なため、デッドスペースがゼロになるように設計されています。ワクチンの原液は0.45ミリリットルで、これを1.8ミリリットルの生理食塩水で希釈します。合計で2.25ミリリットルの液となります。1人分のワクチン液は0.3ミリリットルですから、7人(回)分以上は取れるはずと考えたのです。

 問題は針の長さでした。周知の通り、コロナワクチンは筋肉注射です。インスリン用の注射針は長さが約13ミリメートル(ベクトン・ディッキンソン社製12.7ミリメートル、テルモ製13ミリメートル)と短いため、当初は「使えない」と思いました。そこで、「動物用の注射針なら針が長いものがあるのではないか」と考え、調べてみました。

 そうしたら、動物用も人間用も基本的には同じスペックであり、針の長さも変わらないことがわかりました。

通常の注射器には先端部にデッドスペースがある(左)、インスリン用注射器はデッドスペースがない通常の注射器には先端部にデッドスペースがある(左)、インスリン用注射器はデッドスペースがない(右) 画像提供:宇治徳洲会病院
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「やはり、人間用を使うしかないな」と思い、文献を調べたところ、ある看護関係の論文(※1)に、330人を対象に筋肉内注射部位の皮下組織厚を超音波診断装置(エコー)で測定した結果が出ていました。それを見ると、その論文の対象者では男性も女性も10ミリメートル以下(男性が平均5.9ミリメートルで最大7.7ミリメートル、女性が平均7.1ミリメートルで最大9.4ミリメートル)だったという報告が出ており、「これは使えるかもしれない」と思ったのです。そこで1日に3600本インスリン用注射器を発注し4日に到着しました。

 ちなみに、ファイザーにも確認したところ、「各病院で準備して使用するシリンジ(注射器)に関して、問題はない」「針が細い(29G)ことに関して、薬剤の安定性に問題が生じるとは考えていない(通常の筋肉注射用〈厚生労働省配布〉針は25G)」との見解でした。

 実際、5日に病院の職員14人を超音波診断装置で測定してから接種したところ、筋肉までの長さの平均は6.4ミリメートル、最大9.1ミリメートルでした。また25ミリメートルの針では上腕骨まで届き当たってしまう人が14人中2人いました。

※1:Japanese Journal of Nursing Art and Science Vol. 8, No. 1, pp 66 ─ 75, 2009(菊池和子、高橋有里、小山奈都子、石田陽子)