橋本英二・日本製鉄社長は東日本製鉄所鹿島地区(旧鹿島製鉄所、茨城県)の高炉1基の恒久休止を決断した。だが、構造改革の対象は生産設備の再編成にとどまらない。橋本社長が狙う構造改革の「二の矢」の中身とは何か。(ダイヤモンド編集部 新井美江子)
「やっぱり高炉の恒久休止まで一気に決めたか」。3月5日に鉄鋼国内最大手の日本製鉄が発表した5年間の中長期経営計画を見て、同社の中堅社員は、生産体制の抜本改革に覚悟を決めたかのようにそうつぶやいた。
今回の中計の焦点は、日本製鉄が国内製鉄事業のリストラクチャリングにどこまで踏み込むかに絞られていたといっていい。
すでに昨年2月には、瀬戸内製鉄所呉地区(旧呉製鉄所、広島県)の閉鎖など、生産能力の削減を決めていた。
だが、この1年で鉄鋼業界を取り巻く環境は激変し、日本製鉄の見通しには大きな狂いが生じた。内需の減少や原料高、輸出採算性の悪化という従来あった「三重苦」に加えて、さらなる試練が襲ってきたのだ。
それが、昨秋に政府が掲げたカーボンニュートラル(炭素中立。二酸化炭素の排出量と吸収量をプラスマイナスゼロにすること)の方針である。脱炭素を急ぐためには、巨額投資を伴う生産設備の抜本的な見直しに加えて、海外展開も重視せねばならない。その意味で、国内におけるもう一段の構造対策の策定は必然だった。
果たして、日本製鉄の経営陣の決定は重いものだった。東日本製鉄所鹿島地区(旧鹿島製鉄所、茨城県)の高炉1基の恒久休止を決めたのだ。リストラの対象が粗鋼から鋼材を造る下工程に限られる“限定案”も一時は検討されたようだが、橋本英二・日本製鉄社長は、さらなる高炉休止という上工程の荒療治に踏み切った。